「マイクロプラスチックが人体に悪影響を与える」という研究結果【脱プラの風潮に物申す】

 これまで、マイクロプラスチックが人体に与える影響については、「人体に悪影響を与える可能性はあるが、実のところはよく分からない」というのが、定説でした。
 ところがここに来て、「マイクロプラスチックが人体に悪影響を与えている」という研究結果が次々と発表されています。

 ご紹介しましょう。

【注意】
 この後の本稿をお読みいただくと分かりますが、「マイクロプラスチックが人体に悪影響を与える」という決定的な証拠は、まだありません。

 また和泉としては、「マイクロプラスチックが人体に悪影響を与えるかどうか?」という議論に対し、なんら意見を持ち合わせていないことを明言しておきます。繰り返しになりますが、確定的な証拠であり研究成果はまだありませんから。

 これまで何度かマイクロプラスチックをテーマに記事をお届けしてきた立場から、「『マイクロプラスチックが人体に悪影響を与える』という研究結果が発表されつつありますよ」という情報をお届けすることが本稿の目的です。それ以上でも以下でもありません。

マイクロプラスチックと心臓発作や脳卒中が関連?

 こんな記事がありました。

 記事のポイントを抜粋します。

  • 頸動脈のプラークを取り除く手術を受けたアテローム性動脈硬化の患者304人を対象に研究を行った。
    • プラークは通常、コレステロール、脂質、細胞からの老廃物、カルシウム、フィブリンと呼ばれる血液を固めるタンパク質からできている。
  • 切除したプラークにプラスチックが含まれていた人は、含まれていなかった人に比べて、その後の約3年間に心臓発作や脳卒中を起こしたり何らかの原因で死亡したりする割合が4倍以上も高かった。
  • マイクロプラスチックが血管内に入り込んだ経緯は特定できなかった。
  • マイクロプラスチックが心臓発作や脳卒中の原因になるかどうかやそのしくみについては、現時点では明言できない。
    • 1つの可能性として、マクロファージが体内から異物を排除しようと集まってきたときに、マイクロプラスチック粒子が炎症を引き起こすことが考えられると言う。プラークの中の炎症が増えると、プラークが破れて、その破片が血流に乗る可能性がある。

 記事のタイトルには、「初の証拠」とありますが、特定の疾患を持つ患者の中から、心臓発作・脳卒中を起こした患者をピックアップし、体内にマイクロプラスチックが蓄積されていたという調査結果を述べたに過ぎません。

 マイクロプラスチックが心臓発作・脳卒中を引き起こすメカニズムを解き明かしたわけではありませんし、さらに言えば、対照となる検証もありません。
 健常者も対象とし、マイクロプラスチックと心臓発作・脳卒中の発症リスク・因果関係を示した研究でもないことは、冷静に判断する必要があります。

マイクロプラスチックが生物の健康に影響を与えるメカニズム

 ある研究では、20μm~200μm(※1)の蛍光標識されたマイクロプラスチックをメダカに曝露(細菌・ウイルスや薬品などにさらすこと)させました。

 メダカに取り込まれたマイクロプラスチックは腸管内に高濃度に蓄積されるものの、大半はすぐに排出されたそうですが、サイズが2μmの微細なマイクロプラスチックについては腸管内に残留し、また消化管内ルーメン(※2)に蓄積しました。
 なお、清浄な水環境下にメダカを移動させても、マイクロプラスチックは排出されないことがあったそうです。

 

 メダカに限った話ではありませんが、生物は腸内細菌によって消化の助けを得ています。それだけではなく、腸内細菌は、人の健康や、あるいは精神状態にも影響を与えることが知られています。

→参考(兄弟メルマガである秋元通信の記事です)

 マイクロプラスチックが消化管内ルーメンに蓄積することで、メダカの腸内における微生物バランスが乱れ、健康を害する可能性が指摘されています。

 

※1
μm(マイクロメートル)。1マイクロメートルは 「10のマイナス6乗」メートル。 

※2
ルーメンとは、微生物によって取り込んだ食物の分解・発酵などを行う消化器官のこと。

課題となる、マイクロプラスチック計測手法の早期確立

 マイクロプラスチックの環境中への拡散状況を調べるためには、まずマイクロプラスチックを検出し、その数を計測する手法が確立されなければなりません。

 しかし現状はとてもアナログな方法で行われています。
 ざっくりと言うと、非常に目の細かいろ紙等で段階的に対象(海水や河川水、水道水など)を何度も濾し、顕微鏡を使って目視でマイクロプラスチックを数えるというのが、現在マイクロプラスチックを計測するために行われている手法です。

 これでは手間も時間も掛かってしまいます。

 現在、マイクロプラスチックを計測するための機器開発が求められています。そして分析手法の標準化も必要です。

 マイクロプラスチックは、今や水道水にも含まれています。
 ある程度の大きさのものは、下水処理行程・上水処理行程で取り除けるのですが、微細サイズのものは除去が十分ではありません。

 マイクロプラスチックにおける人体への影響を詳らかにするのであれば、まず定期的に検査が行える体制を作るべく、計測にかかる負荷をなるべく抑えたマイクロプラスチック計測手法を確立し、専用の計測機器の開発も必要です。

 「マイクロプラスチックが人体に悪影響を与える」というのであれば、これは大変なことです。一方で、エセ科学的な流言飛語を防ぐためには、冷静に事実を積み重ねていく必要があります。

 

 私どもの生活から、もはやプラスチックを排除することは不可能です。
 にも関わらず、感情論から脱プラスチックを主張したり、あるいは生分解性プラスチックに過度な期待をかけることの危険性については、すでに過去上梓した記事で主張してきました。

 まず大切なのは、「正しく捨てる」ことです。
 ポイ捨て、不法投棄などを前提とした環境対策・ゴミ対策は、本質的な解決につながリませんから。

 和泉通信では、バイオマスプラスチックに関する情報を定期的に取り上げています。
 次回をお楽しみに!

参考文献

  • 解説:マイクロプラスチックと心臓発作や脳卒中が関連、初の証拠


  • 「マイクロプラスチック問題の概要と分析」
    千田 温子

    「ペトロテック」 47巻4号(通号556)  2024年4月


  • 「マイクロプラスチック汚染研究の現状と課題」 (特集 総説・水環境学の進歩)
    マイクロプラスチック研究委員会

    「水環境学会誌」 46巻12号(通号506)  2023年12月


  • 「環境中マイクロプラスチック計測の現状と課題」
    寺本 慶之

    「クリーンテクノロジー」 33巻8号(通号391) 2023年8月


  • 「第45回シンポジウム 特別セッション『マイクロプラスチックを考える』
    報告 大下 和徹

    「環境衛生工学研究 : 京都大学環境衛生工学研究会機関誌」
    37巻4号 年11月


  • 「大量のマイクロプラスチックが深海堆積物にあった! : その分布実態と輸送経路に迫る」土屋 正史

  • 「科学」 94巻4号(通号1100)  2024年4月

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