間違った環境意識が被害者を生む 【脱プラの風潮に物申す】

 浅はかな知恵は、時として大きなしっぺ返しを食らうことがあります。

 1910年、ハブやネズミを駆除する目的で、17頭のマングースが、沖縄の野に放たれました。
 ところが実際には、マングースはハブを駆除する目的には、ほとんど役に立ちませんでした。それどころか、沖縄の固有種で、保護すべき対象であったヤンバルクイナや、ハナサキガエルやオキナワキノボリトカゲ、ホントウアカヒゲ(鳥類)を捕食し、沖縄の生態系に大きなダメージを与えました。

 マングースを沖縄に放ったのは、東京帝国大学の動物学教室の第5代教授で、日本哺乳類学会初代会頭も務めた動物学者、渡瀬庄三郎氏です。

 渡瀬氏は、他にもウシガエルやアメリカザリガニを輸入したことでも知られます。
 アメリカザリガニも、ウシガエルも、現在では外来種として、日本の固有種に与える深刻な影響が、問題になっています。

 当時、渡瀬氏は、動物学の第一人者でした。
 実際、大正元年に 勲四等瑞宝章を贈られています。

 しかし、今に生きる私たちは、彼の研究が未熟であり、そしてその未熟さ故に、後世を生きる私たちは、彼の研究成果の後始末に悩まされる結果となっていることを知っています。

 「明治・大正期の人物だからなぁ...。ひどいことをしてくれたものだ!」

 いやいや、本当にそうですか?
 渡瀬氏には天国において、十分に反省をしてもらう必要がありますが、渡瀬氏の残した教訓を、私たちは「昔の人のしたことだからなぁ...」と他人事のように論じられる立場なのでしょうか??

 

"「小泉進次郎、責任取れ」の声、レジ袋大手が希望退職者募集へ有料化で何が得られたのか"

 記事では、レジ袋大手のスーパーバッグが、希望退職者の募集を行うことが報じられています。
 同社では、「レジ袋有料義務化や新型コロナウイルス感染拡大による影響」を、希望退職を募る理由として挙げています。

 同じく、ポリエチレンを原料とする気泡緩衝材『エアセルマット』を製造している弊社にとっては、他人事ではありません。

 当ブログ『和泉'sブログ』では、これまでも脱プラスチックの風潮に対し、課題提起を行ってきました。

"プラ製品を悪者にする、脱プラの風潮に物申す"

"「脱プラストロー」問題を考える"

 

 レジ袋の有料化、プラスチック製レジ袋の廃止について言えば、そもそもこういった施策が、本当に環境に優しいのか、脱炭素に貢献できるのかは、疑問が残ります。

 例えば、「環境に優しいこと」をアピールし、レジ袋を紙製に変更している小売店、飲食店がありますが、本当にそうなのでしょうか?

 試しに、プラ製レジ袋と紙袋の重量を比較しましょう。

 ほぼ同サイズの袋、つまりレジ袋に対し、代替として使われるであろう紙袋のサイズを選び、比較しました。
 プラ製レジ袋の一枚あたりの重量は、1.9g。
 対して、紙袋の一枚あたりの重量は、8.8gでした。

 重量にして、5倍弱の差があります。
 この差は大きいですよ。単純計算すれば、プラ製レジ袋であれば、4tトラック一台で約211万枚輸送できますが、同じ枚数の紙袋を4tトラックで運ぼうとすれば、5台のトラックが必要になることになります。(※4tトラックの最大積載量を4tとして算出)

 輸送プロセスにおける二酸化炭素排出量を始めとする環境負荷を比べれば、プラ製レジ袋のほうがはるかに環境に優しいことは明白です。

 さらに、紙製品の生産に使われるエネルギーは、プラスチックより約10パーセントも多く、かつ紙製品は、プラスチック製品を作るときの4倍もの水が必要になるという研究結果もあります。

 勘違いしないでくださいね。
 本稿は、レジ袋の有料化に賛成した人を糾弾することを目的とはしていません。
 また、物事をとことん突き詰めて調査し、その影響に責任を取れとも言っていません。

 そもそも、「紙袋って、プラ製レジ袋に比べて、本当にエコなの?」と疑問をいだき、プラ製レジ袋と紙袋の重量比較などを行う人は、めったにいないでしょう。私たちの日常には、私たちの思いもつかないような課題や落とし穴がたくさんあります。その一つ一つに疑問をいだき、自分なりに調査解決をしようとしたら、いくら時間があっても足りません。

 先に挙げた、動物学者 渡瀬氏の行いも、当時の最先端科学では正解であったのかもしれません。物事の真実を追求するというのは、かんたんなことではないのです。

 世の中には、環境に優しいとか、脱炭素とか、一見意識が高くて、そして世のためになりそうなことがたくさん溢れています。それは、皆さまの善意で生み出されたのであって、尊重されるべきものです。
 だからこそ、そういったモノや考え方に出会ったとき、私たちは、「本当に...そのとおりなのかな?」と自分の意志で考えてみることも大切なのではないでしょうか。
 そして、もしそういったモノや考え方に対し、「いや、実は...」と課題が明らかになったときには、立ち止まり、もう一度考えなおす余裕と勇気を持つべきではないでしょうか。

 間違った環境意識が、被害者を生むのであれば、それはとても悲しいことです。
 知性なき環境意識は、滑稽を通り越して、時に残酷ですらあります。

 「もし自分が、レジ袋有料化によって、早期退職を求められたら?」と思うと、ゾッとしませんか?

 「私の環境意識は、本当に正しいのだろうか?」──SDGsなど、環境や社会貢献に対する意識が高まっている今だからこそ、ぜひ留意すべきだと、私たちは考えています。

 

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「プラスティック製ストローを使用するなんてけしからん!」
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 ことの起こりは、マイクロプラスティックによる海洋汚染です。
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ちょっと、冷静に考えてみませんか?

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