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マイクロプラスチック問題を発端として、「プラスチック製ストローを使うなんてけしからん!」という、「脱プラストロー」の風潮が広まりつつあります。
率直に言えば、当社もプラスチック(正確には、ポリエチレン)を主原料とするエアセルマットのメーカーである手前、心穏やかではありません。
心穏やかではない理由のひとつは、マイクロプラスチック問題を発端に、プラスチック製品そのものが悪者であるかの論調が広まっていることです。
そして、その象徴的な活動として、「脱プラストロー」を実施するカフェやレストランが発生しています。
プラスチック製のストローを、紙ストローに変えることで、マイクロプラスチックは減らせるのでしょうか...?
ちょっと、冷静に考えてみませんか?
マイクロプラスチックとは、大きさ5mm以下の微細なプラスチックのことです。
2016年、東京農工大、東京海洋大学が相次いで、マイクロプラスチックに関する調査研究結果を発表しました。
東京湾で捕獲されたカタクチイワシ8割近くの内臓から、マイクロプラスチックが検出されたこと。
日本周辺の海域では、世界の海における平均量の約27倍のマイクロプラスチックが海水中に存在すること。
つまり、既に海と、海に住む生物たちは、マイクロプラスチックによって侵されていることが分かったのです。そして、海の魚を食べる人間の体内にも、食物連鎖の結果として、マイクロプラスチックが蓄積していく可能性があります。
マイクロプラスチックに関する話は、当ブログ『プラ製品を悪者にする、脱プラの風潮に物申す』に詳しく書いています。
ぜひ、本記事とあわせてご覧ください。
「マイクロプラスチック問題を放置してはいけない...」
ここからクローズアップされてきたのが、プラスチック製ストローの廃止運動です。
では、プラスチック製ストローの廃止を決めた飲食店は、どれくらいあるのでしょう?
他にも、世界的なアミューズメントパーク、ホテルチェーンなどが、プラスチック製ストローの廃止を表明しています。
プラスチック製ストロー | 紙製ストロー | |
参考価格※1 | 1本あたり1円 | 1本あたり2円44銭 |
長所 |
・無味無臭で、飲み物の風味を邪魔しない。 ・耐久性が良い。 |
自然分解する。 |
短所 |
自然分解しない (生分解性プラスチック製ストローも存在する) |
・独特の舌触りや匂いがある。 ・耐久性に乏しく、長く使っているとふやけてくる。 |
これは、あくまで「現時点では」という条件での比較です。
総じて言えば、紙製ストローには、まだ性能、価格の面で課題があるのは事実でしょう。もっとも、紙製ストローが普及するにつれて、技術の進歩が紙製ストローが持つ課題を解決する可能性はあります。
プラスチック製ストロー/紙製ストローに限った話ではありませんが。
環境対策にはコストが掛かります。そのコストは、消費者が負担するものです。これは、忘れてはダメなところです。
マイクロプラスチックは、不法投棄やポイ捨てされたプラスティック製品が、細かく砕けたものです。きちんとごみ処理を行っていれば、発生しません。
この点を踏まえ、現在行われている、脱プラストロー運動のうち、不思議なものを取り上げましょう。
こういった、明らかに不思議な「脱プラストロー」運動の根源にあるのは、「プラスチック製ストロー=悪者」という発想ではないでしょうか?
これは断言しましょう。
自然界で分解する素材(紙や木材)に対し、化学的に生成されたプラスチック製品が悪者だと一概に決めつけるのは間違いです。
そもそも、プラスチックとは、どのようにして生み出されるのでしょう。
※画像はクリックで拡大します。
プラスチックの原料であるナフサは、原油が精製される過程で生み出されます。
その割合は、原油全体に対し、わずか3%です。燃料として利用されるガソリンや軽油、重油等の副産物として生み出されるわけであり、プラスチック製品を使わなかったからと言って、原油の採掘量が減るわけではありません。
もうひとつ、この問題を考える際に必要な考え方があります。
それが「ライフサイクルアセスメント (Life Cycle Assessment / LCA)」です。
ライフサイクルアセスメント (Life Cycle Assessment/ LCA)とは、ある製品が、生み出されてから廃棄されるまでのプロセスすべてにおける環境負荷を明らかにしようという取り組みです。
「プロセスすべて」ですから、原材料の調達から、製造、販売、廃棄、リサイクルの各プロセスはもちろん、各プロセスをつなぐ物流プロセスにおける環境負荷も検討されます。
ただし、LCAはまだ比較的新しい取り組みであり、プラスチック製ストロー、紙製ストローのそれぞれについて、一般論としてのLCAを算出することはとても困難です。LCAを算出するためには、例えば石油採掘を行う石油メジャーから、メーカー、リサイクル業者、原油を輸送するタンカーの運営会社等、製品に関わるすべてのメーカーの協力を得て、LCA算出を行わなければならないからです。
今のところ、これだけのLCAを算出するための基礎データは整備されていません。
参考として、LCAを考える一例として、ある記事を紹介しましょう。
「プラスチック禁止が『環境破壊につながる恐れ』英シンクタンク」(BBC NEWS JAPAN)
記事は、「小売店でのプラスチック包装をやめるべきだという消費者からの圧力が、実際には環境破壊につながるかもしれない」という衝撃的な言葉から始まります。
もうひとつ、別の考え方もあります。
それは、プラスチック製品を含めて、リサイクルすることが本当にエコなのかどうか?、ということです。
どんな製品であれ、リサイクルをするためには、新たな工業プロセスが生まれます。新たに生まれたリサイクル工業プロセスが、むしろ逆に環境へ負荷を与えているのではないかという問題提起です。
一例として検討されたのは、「プラスチックを焼却処分すべきかどうか?」です。
以前は、プラスチック製品をごみ焼却場で燃やすと、焼却炉が傷むと言われていました。また、燃焼ガス中に含まれるダイオキシンが公害を発生させると言われていました。
しかし、最近の焼却炉は、ダイオキシンの発生を排出基準以下に抑え、なおかつ、プラスチック製品を焼却処分しても、ダメージがない焼却炉へと技術進化しています。むしろ、プラスティック製品が燃える際の燃焼エネルギーによって、焼却にかかる燃料消費量を減らすことができるという研究もあります。
繰り返しになりますが、LCAというのはまだ発展途中の取り組みであり、まだまだ熟成が必要です。
だからと言って、LCAの考え方を取り入れず、なんとなく「プラスチック製品はマイクロプラスチックの原因なのだから悪者だ!」と決めつけるのは、あまりに浅慮です。
「脱プラストロー」運動に対し、根本的にずれているのは、不法投棄やポイ捨てを前提にしていることです。
悪いのは、不法投棄でありポイ捨てであって、捨てられる対象物(プラスチック製ストロー)ではありません。それは、問題のすり替えでしかありません。
では、紙製ストローだったら、ポイ捨てされても良いのでしょうか?
違いますよね?
飲食店は、まず自社で販売する、コーヒーなどの持ち帰り商品に対し、「ゴミはゴミ箱へ!」というあたりまえの訴求活動をするべきではないでしょうか。
例えば、持ち帰り商品に、「ゴミはゴミ箱へ捨てましょう!」というメッセージを印刷してはいかがでしょう?
例えば、デポジット制を設けてもいいでしょう。
例えば、ゴミ箱を街なかに設置しても良いのでは?
例えば、「マイクロプラスチックをなくすために、うちのカップやストローは、きちんとゴミ箱に捨ててください」とCMを流してはいかがでしょうか。
「脱プラストロー」運動の背後には、世間の流れに盲従し、とりあえず消費者に嫌われたくない、という意識があるのではないでしょうか。
だって、世界的なチェーン店が、「脱プラストロー」運動に賛同するって...
LCAの考え方などは、大企業であれば、当然ご存知のことと思います。結局、消費者への説明責任をサボっているだけに見えてしまいます。
ただし、世の中の常識や、最適な行動は、その時々によって変わるものです。
例えば、本記事の内容。
本記事では、「プラスチック製ストローを廃止すること」、ひいては「プラスチック製品を悪者にすること」に対し、否定的な立場をとっています。
ただし、この考え、本記事の内容が、10年後、20年後も正しいとは限りません。
技術の進歩や、世界の変化は、いともたやすくそれまでの常識を覆します。
例えばですよ。もし、世界中の乗り物で使用される燃料が、非化石燃料となった社会が来たら、もはや石油由来の化学製品など悪者以外の何物でもないでしょうね。
大切なことは、自分の頭で考えることです。
もしあなたが、プラスチック製ストローを廃止し、紙製ストローを使う店に立ち寄ったとしたら...
ほんとうの意味での環境保護とはどうあるべきなのか、本記事が、その考えるきっかけになれば幸いです。