「ビニール袋」と「ポリ袋」の違いは? ポリエチレンの深~い話

 皆さんは、ビニール袋とポリ袋の違いをご存知ですか?

 ニュースでも、コンビニやスーパーで使用されているレジ袋のことを「ビニール袋」と呼んだり、「ポリ袋」と呼んだりしていますが、いったいどちらが正しいのでしょうか?

 実は、一般的にレジ袋に使用されている物は、ほとんどが「ポリ袋」といってよいでしょう。

 「ポリ袋」とは、ポリエチレン(PE)、またはポリプロピレン(PP)を使った袋であり、「ビニール袋」の「ビニール」とは、塩化ビニル樹脂(PVC)のフィルムのことを指しています。

 塩化ビニル樹脂製品は、身近では子供の水着入れに使われる透明な厚手の袋や、テーブルクロスに使われていることが多いです。 

 確かに、昔はいろんな買い物袋に、ビニール袋が使われていました。ポリ袋のことを、ビニール袋と呼んでしまうのも、その名残でしょうね。
 DSやPSなど、家庭用ゲーム機をすべてファミコンと呼んでしまうおじさんと同じです。

 今回は、当社エアセルマットの素材でもあるポリエチレンについて、プラスチックの歴史を交えながら、少々深くマニアックに、専門知識も交えながらお伝えしましょう。

プラスチックの歴史とポリエチレン

 プラスチックの前身と言われるのは、アカシヤの木に寄生する昆虫から抽出した、シェラックと呼ばれる天然樹脂であると言われています。

 そしてプラスチックの歴史は、1835年フランスのルノーが、ポリ塩化ビニルの粉末を開発したことから始まります。同時期にドイツのジモンがポリスチレンの粉末を発明しました。

 残念ながら、いずれも工業化には至りませんでした。
 1851年、アメリカのチャールズ・グットイヤーが、天然ゴムと硫黄で作ったエボナイトというゴムを発明し、特許を取得、工業化いたしました。プラスチックではありませんが、自動車産業発展の礎となりました。

 そして1870年世界初のプラスチックとして、アメリカのハイアットが熱可塑性樹脂であるセルロイドを発明し、工業化いたしました。セルロイドは、高価な象牙の代替材料として、ビリヤード玉などに広く使用されるようになり、映画用のフィルムやおもちゃの人形など、使用範囲が広がっていきました。

 その後、1907年にフェノール樹脂をベークランドが工業化し、ベークライトの名で広く普及しました。人工的合成樹脂として、カメラや電話機に使用されていきました。

 1926年には、アメリカのBFグットリッチ社が、様々な添加物を混ぜ合わせることで加工しやすいポリ塩化ビニルを作ることに成功し、工業化されました。

 そして1930年代にはポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロンなどが次々に工業化され、これら合成樹脂製品が、軍需利用されることにより急激な拡大をしていきました。

 

 一方、ポリエチレンは1898年ドイツのペヒマンがジアゾメタンを熱分解している際に偶然発見されました。

 その後、1930年代にイギリスのICI社の研究者によって酸素を開始剤とする高圧合成法が開発され、工業化の道が開かれました。

 しかしながら、ポリエチレンは同時期に工業化されたナイロンやポリスチレン樹脂に注目を奪われました。当初、ポリエチレンの発明はあまり注目されなかったようです。

 ポリエチレンが注目されたのは、優れた高周波絶縁性を持っていることが判明してからです。レーダーの素材として軍需用に投入され、第二次世界大戦での連合軍勝利に決定的な役割を果たしたと言われています。ちなみにICI社のポリエチレンの工業的プラントが、初めて稼働したのはドイツ軍がポーランドに侵攻したその日であったそうです。
 一方、我が日本では第2次世界大戦中、捕獲兵器やレーダーの存在、そしてその素材にポリエチレンが使用されていることは全く知らなかったと伝えられています。

 第2次世界大戦が終わると、軍用品として利用されていたプラスチックや合成ゴム、合成繊維が一般市民の生活に登場していきます。代表的なものでは「ビニール」と呼ばれたポリ塩化ビニル、「ポリ」と呼ばれたポリエチレン、「スチロール」と呼ばれたポリスチレン、「ベークライト」と呼ばれたフェノール樹脂があげられます。
 そして1955年以降、石油化学の発達によりコンビナートから採掘される石油原料の樹脂が製造され、最初はエチレンを中心に総合化学工業が進み、ポリエチレンを代表とした様々な樹脂が大量生産され、日用品や衣料などの生活用品への利用が急激に進みます。その後、プラスチックはポリプロピレン中心の工業化へとシフトしていきます。

 エンジニアリングプラスチック(機械的な強度や耐熱性など特定の機能を強化しているプラスチック)も登場し始め、アメリカのデュポン社がポリアセタール(POM)ドイツのバイエル社がポリカーボネート(PC)の生産も開始されました。

 さらに1965年以降スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)といわれるポリスルホン(PSU)、ポリイミド(PI)、PPS樹脂などの高機能樹脂も登場し、プラスチック製品は多様化が進み、高度経済成長とともに急激に発展していきました。

 現在でも大活躍している食品用発泡トレイや冒頭に出てきた「PE製レジ袋」の歴史は、新しく1970年代にやっと登場しました。

 現在、日本だけでも合成樹脂の生産量は、年間1000万トン(2016年調べ)を越え、もはや生活に欠かせない素材となっております。その中でも三大汎用プラスチックと呼ばれる、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリ塩化ビニルだけで700万トン近くあると言われます。

ポリエチレンの基礎知識

 ここからは、もはや生活には欠かせないプラスチックの代表格であるポリエチレンについての基礎知識について、説明しましょう。 

1.ポリエチレンの概要

 ポリエチレンの元となるエチレン(C2H4)は、炭素(C)と水素(H)のみからなる極めて単純な元素の組み合わせでできております。
 ポリエチレンは、基本的には原油を蒸留して得られるナフサを熱分解することで得られるエチレンを多数結合したものです。多数結合させることを重合といいます。

 ポリエチレンは、エチレンを重合させた高分子化合物であり、炭素と水素のみからなる脂肪族炭化水素と呼ばれ、重合方法や高分子鎖の枝分かれの仕方により、性質が変わります。

ポリエチレンの化学記号(構造式)

2.ポリエチレンの性質

  • 無味無臭
  • 化学的に安定しており水や薬品に耐性がある
  • 電気絶縁性に優れている
  • 防湿性に優れている
  • 軽い
  • 加工性に優れている
  • 有害物質が含まれていない

3.分類

a)低密度ポリエチレン(LDPE)

 低密度ポリエチレンは、エチレンに高圧下、ラジカル重合触媒で重合させて製造します。結晶性が悪いため、密度の低いポリエチレン( 0.91g~0.93/ cm2)ができます。長い線状分子に、短い枝がたくさんついているのが特徴で、エチルやブチルなどの短い分岐が多数できるため密度が低くなります。

  • 軟化温度が低く(105℃)成形加工性が良い。        
  • 耐熱温度は 80~90 ℃で高温での使用には適さないが、透明なフィルムができる。
  • ヒートシール性が良い。 

b)高密度ポリエチレン(HDPE)

 高密度ポリエチレン(HDPE)は、エチレンをチーグラー触媒を用いて重合させることにより、製造したポリエチレンです。 密度が 0.95g~/cm2と高く、乳白色で剛性のあるポリエチレンです。
 分子鎖の枝分かれが少なく、結晶性が高いです。構造は分子量の違いだけで、ローソクと一緒です。燃えるとロウのにおいがします。

  • フィルムは不透明でパサパサした感触があるが、強靭である。
  • 防湿性がよいが一方向に裂けやすい。
  • 耐熱温度が高く(120℃以上)、ヒートシール性もある。
  • 衝撃に強い。

c)直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)

 低密度ポリエチレンの一種。分子構造が普通の低密度ポリエチレンと異なる直鎖状であるため、LDPEに比べて優れた特徴があります。
 長鎖の枝分かれは存在しませんが、1-ブテン、1-ヘキサン、4-メチルペンテン-1、1-オクテンのようなα-オレフィンを数%共重合させることにより短鎖の枝分かれを導入して低密度にしています。

  • 低密度ポリエチレンよりも強靭で優れるが、成形加工性は劣る。
  • 薄くても強度に優れている。
  • 低温でもヒートシール性に優れている。
  • 伸張性や透明性にも優れている。

 ひとくちにポリエチレンといっても、その重合方法や分鎖の仕方によって、物性や特徴はさまざまです。

 弊社製品エアセルマットは、基本的にそれぞれの種類のポリエチレン樹脂の性質を有効的に生かすため、LDPE、HDPE、L-LDPEをちょうどよい塩梅で混合し、製品にしています。

 意外と奥深い、ポリエチレンの話、皆さまお楽しみいただけましたでしょうか。
 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

 



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