業務改善を行う上で大切な、「痛み」を発見するコツ 【勉さんのちょっといい話】

「当たり前なコト」こそ、見直すべきなんですよ。

 いや、唐突に失礼しました。
 少し、昔話にお付き合いください。

 私が、トヨタの総務に在籍していた頃の話です。
 ある業務を担当する、女性3人のチームがありました。彼女たち、いつも忙しそうにしておりましたな。

 ある時、私は3人に尋ねました。

「あなた方の仕事は、何を目的としているのですか?」

 当時、私は総務部内の業務改善に取り組んでおり、総務の仕事をフローチャートにまとめておりました。
 彼女たち3人の仕事が、何を目的にして、どういう役目を果たしているのか、よくわからなかったのです。そこで、当人たちに尋ねてみたのですが。

「前任者から引き継いだ仕事だから」
「私たちは、言われたとおり、働いているだけです」

 やはり...
 3人の答えは、私が想像していたとおりでした。

 3人は、自分の仕事の目的も、そして、総務全体の仕事の中で、自分たちの仕事がどういった役割を果たしているのか、仕事の全体像も理解していませんでした。

  • 目的が不明な業務は止める。
  • 総務全体の仕事フローチャートを分析、必要がない業務は止める。
  • 重複している仕事も止める。

 このように思い切った業務の断捨離を行った結果、チームを3人から1人に削減することができました。

 業務改善というと、対処療法、つまり業務を改善する方法に意識が向きがちですが。
 業務のどこに改善すべき病巣があるのか、つまり痛みを明らかにすることも、とても大切なことです。

 今回は、業務改善を行う上で大切な、「痛み」を発見するコツについて考えましょう。

「痛み」を発見することが難しい理由

 先日、用事があって、市役所に赴いたんですが。
 職員の皆さん、揃いも揃って、机の上が汚いですな...

 どの机にも、書類の山。
 中には、だいぶ乱雑に積み上げている方もおりました。

 いかんですよ!
 あれで、効率的な仕事ができるわけがない。

 私が現役の頃は、あんなみっともない机は、許しませんでした。
 出社したら、引き出しから書類を出す。
 いったんすべてを裏返したら、こんどは一枚づつ、確認をしていく。
 その上で、仕事の優先順位をつけ、どのようにしたら、効率よく仕事を片付けることができるか、段取りをつけるわけです。
 そして、退社時には、明日以降も必要な書類だけを引き出しにしまい、後はシュレッダーにかける。

 要は、毎日、自分の仕事に対し、段取りの采配を繰り返していたわけです。

 

 今は、役所もデジタル化が進んでいるはずでしょう?
 あんな、紙の書類を積み上げる必要があるんですかな?

 勘違いしてはいけませんよ。
 もっとも問題なのは、書類を積み上げていることではなく、書類を積み上げていることを、「おかしい!」「変だ!」「本当に必要なのか?」と、考えるコトを怠っていることです。

 自分が当たり前、と思っていること。
 職場において、当たり前だと思われていること。

 本当に、それは当たり前なんですかな?
 仕事の目的はなんですか?、そのために、あなたがすべきことはなんですか??

 冒頭のエピソードで、女性3人が言ったこと、思い出してください。

「前任者から引き継いだ仕事だから」
「私たちは、言われたとおり、働いているだけです」

 当たり前、という言い訳には、業務における痛みを見過ごしてしまう、落とし穴があります。
 人の心にも、慣性の法則が働きます。前任者の仕事のやり方を、よしとしてしまうのは、ある意味、致し方ないことではありますが。

 それでは、業務改善は進みませんぞ!

 この、人の心に働く慣性の法則、「当たり前のジレンマ」とでも呼びましょうか、これが、業務改善において、痛みを発見することを困難にしています。

デジタル化を阻む、「紙のほうがわかりやすい」という勘違い

 今どき、デジタル化を拒むというのも、困ったもんですが。

 例えば、メールではなくFAXを好む人。
 いちいち、書類をプリントアウトしたがる人。

 こういう方々に共通する言い訳は、「紙のほうがわかりやすい」です。

 確かに、紙の書類のほうが、俯瞰しやすいです。
 100ページの書類があれば、PDFで100ページをざっと眺め返すよりも、紙で100ページ斜め読みするほうが、楽...かもしれません。このあたりの感覚は、人それぞれですがね。

 ですが、紙の書類は、結局、再入力しなければいけません。情報を再活用しようとすれば、最終的にはデータ化しなければならんわけです。
 極論ですが、紙で書かれた営業日報なんて、提出時に読んだら、後は読み返さんでしょう。紙ベースの顧客名簿なんて、活用のしようがありませんな。

 

 これは極端な例かもしれんですが。
 けっきょく、「紙のほうが便利」「紙のほうがわかりやすい」と主張する人は、自分の都合だけを主張しているにすぎんのです。

 情報社会の今、これは考えもんですぞ。

「痛み」を発見する上でも、4S、なぜなぜ分析は有効

 業務改善の課題となる「痛み」を発見するコツを、みっつばかりご紹介しましょう。

 ひとつ目は、4Sです。
 私が言うと、「また4Sですか...?」とうんざりする方もいるかもしれませんな(笑)

 4S、つまり「整理・整頓・清掃・清潔」は、痛みを発見する上でも有効です。
 書類の山が積み上げられた机は、もちろんですが。汚い...というとよくありませんな。4Sが行き届かないポイントには、何か課題が隠れています。

 なぜ、そこは4Sができないのか?
 それは、書類の山のように、目に見えるものばかりではありません。冒頭のエピソードで挙げた、「女性3人がいつも忙しそうにしているチーム」も、仕事に対する「整理・整頓・清掃・清潔」ができていなかったわけです。

 

 ふたつ目は、なぜなぜ分析です。
 なぜ、その仕事をするのか? その仕事の目的は?
 なぜ、その仕事は、そのやり方で行うのか? もっと効率の良い仕事のやり方はないのか?

 私に槍玉にあげられた、3人組も、自分たち自身で、なぜなぜ分析をしておれば、早くから痛みに気がつくことができたでしょうに...

 

 3つ目は、トライする勇気です。
 誰しも、業務改善を志し、現状を変えようとするには勇気が必要です。
 繰り返しになりますが、人の心には慣性の法則が働きます。

「このままでいいじゃないか?」
「なぜ、今変えないといけないのですか?」

 こういった抵抗勢力は、必ず、どんな職場、どんなチームにもおりますからな。

 でも、だからこそ、勇気を持って、業務改善にトライしてみましょうよ。
 あなたの勇気は、きっと価値あるものとなるはずですから。

 

 繰り返しましょう。
 「当たり前なコト」こそ、見直すべきなんですよ。
 皆さんも、ぜひ「当たり前」と思っていることに対し、「いやちょっと待てよ! これは、本当に当たり前なのかな?」と振り返ってください。

 業務改善の出発点となる、痛みは、その「当たり前なコト」の影に隠れるのが、得意なのですから。

 



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