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今年に入ってから、「物流の2024年問題」に関する報道がとても増えてきています。
当たり前ですよね、ターニングポイントとなる2024年4月1日まで、既に1年を切っているのですから。
本稿では、和泉通信流に分かりやすく、メーカーや小売、卸、商社などの荷主の立場から、「物流の2024年問題」について考えます。
「物流の2024年問題」とは、働き方改革関連法によって、2024年4月1日以降、「自動車運転の業務」に対し、年間の時間外労働時間の上限が、960時間に制限されることによって発生する諸問題に対する総称です。
では、ここで言う、「諸問題」とはなんでしょう?
荷主の立場からすると、以下の3つが考えられます。
トラックドライバーは、2024年4月1日以降、時間外労働の上限規制(すなわち残業規制)が課されます。それはすなわち、「トラックで運ぶことができる貨物が減る」(=輸送リソースの低下)につながります。
ちなみに、ある試算(注1)では、全トラックドライバーの26.6%が残業規制に抵触する働き方をしているのだとか。
さらに言うと、この試算では、2024年4月1日以降、輸送リソースが1割以上も不足する(注2)と算出しています。
ちなみに、「物流の2024年問題」に対する報道が増えてはいるものの、その多くが「宅配やECに影響が出るぞ!」と結論しています。
これは間違いではないのですが...、でも正しくもありません。
根拠は3つあります。
このあたりは、筆者が別メディアで詳しく書いています。ご参考になれば幸いです。
「物流の2024年問題」イコール「宅配クライシス」という誤解が、なぜ問題なのでしょうか?
それは「物流の2024年問題」の影響を過小評価してしまうというミスリードを起こすからです。
「物流の2024年問題」を宅配・ECに結びつける報道では、「今までのような翌日配送はもう無理かも」という紐づけがたびたびなされています。
しかし、国内トラック輸送リソースの大半が、企業間物流(BtoB輸送)に費やされている以上、本質的な問題は、「製品を運べない」あるいは「製品の材料となる原材料を運べない」(=「モノが作れない」)というところにフォーカスすべきです。
筆者の書いた記事を含め、「物流の2024年問題」をテーマにした記事には、よく「ECの翌日配送くらい、我慢しようよ」といった読者からのコメントが付きます。
これはこれで、物流業界の中の人にとってはありがたいコメントですが、ECの翌日配送を我慢したぐらいでは、残念ながら「物流の2024年問題」は解決しません。
ちなみに、ヤマト運輸は、宅配の翌々日配送対象地域の拡大を発表しました。今まで翌日配送だった地域間配送も、翌々日配送へと転換するというものですが、これは「物流の2024年問題」対策というよりも、日本を代表する大企業のひとつであるヤマト運輸が、よりホワイトな労働環境を実現し、企業価値を高めるための施策と考えるべきでしょう。
もし、「物流の2024年問題」を「それって、運送会社の解決すべき問題でしょう? 荷主であるウチには関係ないよな」と思っている方がいるとしたら...、それはとんでもない勘違いです。
順を追って、解説しましょう。
たしかにこれまでの物流プロセスでは、なにかルール違反を犯したとしても、行政処分等の罰を受けるのは、運送会社だけでした。
例えば、荷主が過積載を運送会社に要求したとしても、直接的な処分を受けるのはドライバーであり、運送会社でした。
例えば、「19時に貨物を積んで、後は寝ないで走って、翌日朝9時に福岡まで貨物を届けなさい」と荷主が運送会社に命じた結果、労務コンプライアンスに違反したとして罰せされるのは運送会社でした。(ちなみに、ドライバー時代の筆者はこれをやらされましたが...、地獄でした)
ここで考えなければならないのは、「輸送プロセスを設計しているのは誰なのか?」という問題です。
経済産業省、国土交通省、農林水産省が3省共同で開催している会議では、「実質的に輸送プロセスの決定権を持つのは荷主であって、運送会社ではありませんよ」という主旨の見解(注3)が発表されました。
これを受けて、現在、政府では「物流の2024年問題」に取り組まない荷主に対する規制やペナルティ制度を法制化する方向で検討しています。
その他、自民党の物流調査会が、「物流の2024年問題」対策を盛り込んだ提言案をまとめたというニュースも飛び込んできました。この提言には、荷主に対するペナルティの法制化が盛り込まれています。
どうですか?
「とんでもない勘違い」と申し上げた理由が、少し腑に落ちたのではないでしょうか。
最近、筆者は以下の記事を上梓しました。
トラック輸送における運賃は、個建て運賃と車建て運賃の2種類に大別されます。
記事では、個建て運賃・車建て運賃を解説するとともに、それぞれが運送会社にもたらすリスクについて、最近高値が続いている卵の配送を例に考えているのですが、この記事を読んだある運送会社から、こんな声が寄せられたのです。
「ウチでは、個建て運賃並みの条件で、車建て運賃を取れるようになってきました」
解説しましょう。
個建て運賃とは、1個の貨物単位で、運賃を設定すること。
車建て運賃とは、トラック1台単位で、運賃を設定することを指します。
個建て運賃では、貨物量が想定よりも少なければ、運送会社は損をします。
車建て運賃では、貨物量が想定よりも少ない場合に損をするのは、運送会社ではなく荷主です。
そのため、個建て運賃に比べて、車建て運賃は割安に設定されることが普通でした。これまでは、運賃交渉のパワーバランスは、客である荷主のほうが強かったから当然です。
もちろん、いつも一定量の貨物を出荷できていれば、荷主も運送会社も、個建て運賃、車建て運賃のどっちでも良いわけですが、そうはいきませんよね。
だから荷主としては、自社のリスクを最大限に抑えるために、車建て運賃で運送契約を結ぶときには、なるべく安く運賃を設定するわけです(その代わり、運送会社は、「利益は薄くとも、赤字になることはない」というリスクヘッジを得ます)。
ところがですよ。
記事を読み、連絡をくれた運送会社は、このように言っています。
「もちろん、今まではこんなことはありませんでしたよ。しかし、個建て運賃同等、あるいはそれ以上の水準で、車建て運賃の案件が頂けるようになってきました」
背景には、「物流の2024年問題」があると言います。
ある荷主では、自社貨物を運ぶ運送会社を精査したところ、その大半が残業規制を破っていたそうです。これでは、2024年4月1日以降、行政処分を受ける可能性があります。
荷主からすれば、運送会社が営業停止等の行政処分を受けてしまうと、製品輸送の継続が危うくなります。だったら、多少(...と言っても、聞けばだいぶ高額な運賃でしたが)運賃が上がっても、今のうちに残業規制をクリアしているホワイトな運送会社を確保しておこうというのが荷主の意図である、と件の運送会社は、事情を説明してくれました。
「ウチにとっては、『物流の2024年問題』は追い風ですよ。間違いなく、『荷主が運送会社を選ぶ』時代から、『運送会社が荷主を選ぶ』時代へと転換が進んでいます」
「物流の2024年問題」の認知度は、決して高くありません。
ある調査(注5)では、「知らない・分からない」と答えた企業担当者が、半数もいたんだとか。
また同じ調査では、7割の企業が、「物流の2024年問題」に対し、「あまり取り組めていない」「まったく取り組めていない」と回答しています。
これ、ホントにマズイです。
あなたの会社は...、大丈夫ですか?
もし本稿を読んで、「いや、ウチもヤバいな...」と感じたら、ぜひ手遅れになる前に、「物流の2024年問題」対策に取り組み始めてくださいね。