「ほんものへのこだわり」和泉親会社、「いづ藤漬物舗」が守る、守口漬

 和泉の親会社であり、ルーツである「いづ藤漬物舗」は、きしめん、ういろうと並ぶ名古屋名物「守口漬」の伝統を守る、漬物屋です。
 明治後期、現和泉社長:伊藤嘉浩の祖父である伊藤秋政が、奉公先であった漬物屋「いづみや」から暖簾分け、創業したのが、「いづ藤漬物舗」です。

 今回は、守口漬の伝統を大切に守りながら「ほんもの」であり続けることにこだわる、いづ藤についてご紹介しましょう。

※画像はすべてクリックで拡大します。

守口漬とは

瓜の守口漬。食べれば、しゃきしゃきとした小気味良い歯切れの後に、爽やかでありながら凝縮された旨味が舌を喜ばせる。
瓜の守口漬。食べれば、しゃきしゃきとした小気味良い歯切れの後に、爽やかでありながら凝縮された旨味が舌を喜ばせる。

 守口漬とは、守口大根の粕漬けのこと。漬かった守口漬は、琥珀色に輝きます。
 また、守口大根とは、愛知県扶桑町および岐阜県各務原市でしか生産されていない、長さが120~130cm、太さが2~3cmの細長い大根です。

 守口大根は、身が固いことから、通常の料理等には向きません。
 しかし、漬物にしたとき、その固さが歯切れのよい食感につながることから、守口漬の材料として用いられています。

 なお、いづ藤漬物舗では、守口大根の他に、瓜、きゅうりの味醂粕漬けや、山ごぼうの味噌漬けなども提供しています。

「粕漬け」ではなく、いづ藤漬物舗が「味醂粕漬け」と表記する理由

 一般的に、粕漬けと言えば、酒粕に野菜を漬け込んだ漬物を指します。
 奈良漬けのように、しょっぱく、また強い酒粕の匂いを思い出し、苦手な方もいらっしゃることでしょう。

 いづ藤漬物舗では、「粕漬け」ではなく、「味醂粕漬け」(みりんかすづけ)と銘打っています。これは、いわゆる酒粕漬けと区別してもらうためです。

 酒粕とは、日本酒の製造過程で生じるもろみを圧搾した後に残るもの。同様に、味醂粕とは、みりんから生じるもろみを圧搾した粕を指します。
 漬物となる、守口大根、瓜などを、酒粕で漬け込んだ後で、さらに味醂粕で漬け込む理由は、酒粕漬け特有の酒臭さを抜き、深い風味を味わいを生み出すためです。

 しかし、味醂粕は、酒粕に比べると高価です。また、同社のような手間暇を掛けると、製造コストも上がります。そのため、とても残念なことではありますが、守口漬を名乗る漬物の中にも、酒粕と味醂粕を混合して漬け込む、つまり手間を省いているところもあります。

 同社では、昔からの製法を守っている証として、あえて「粕漬け」ではなく「味醂粕漬け」と銘打っているのです。

「一番成り」、いづ藤漬物舗が野菜にもこだわる理由

 いづ藤漬物舗は、野菜にもこだわります。
 同社の守口漬で使用される野菜は、いずれも「一番成り」と呼ばれるもの。その年、最初に収穫される野菜を、「一番成り」と呼びます。

 例えば、瓜の場合、ビニールハウスで栽培されたものではなく路地もの、つまり太陽を浴びて育った野菜は、6~7月に収穫されます。野菜に限らず、果物でもそうなのですが、最初に成育した野菜は、身が引き締まり、漬物にしても小気味好い歯ざわりを楽しむことができます。
 しかし、二番目、三番目に成育した野菜は、水分が多く、どうしても身が柔らかくなってしまいます。
 これが、同社が一番成りにこだわる理由です。

 なお、同社の瓜漬けは、白瓜ではなく青瓜を使用しています。
 白瓜は、全国で生産され、スーパーなどにも並ぶ、一般的な瓜です。
 対して青瓜は、尾張・美濃地区と徳島でしか生産されていません。白瓜に比べると身が固いため、漬物にした後も歯ごたえが残ることが特徴です。

 同社では、契約農家から青瓜を仕入れ、味醂粕漬にしています。
 同社がお付き合いしている契約農家は、先代から農業を引き継いだ農家ではなく、志あって農業を始めた30代の方々が中心とのこと。多くの農家は、料理をする上での食味に有利な白瓜を作りたがります。しかし、同社がお付き合いする農家は、伝統的な野菜(青瓜)もしっかりと残していこうという、気概に溢れた方々なのです。

時代遅れかもしれない。でも、ほんものを追求する理由

創業期に使用されていた看板。
創業期に使用されていた看板。

 いづ藤漬物舗のこだわりは、素材である野菜に留まりません。
 例えば、漬物を漬けるための樽。同社では、木樽にこだわり続けます。多くの漬物屋は、安価で手入れも楽なプラスティック製の桶を利用していますが、木の中に存在するであろう効果を大切にし、同社では木樽を使い続けているそうです。

 なぜ、ここまで守口漬の伝統的な製法にこだわるのでしょうか?
 伊藤取締役は、ある同業者から、こんなことを言われたそうです。

「そんな手間暇掛けて作ってたら、儲からないでしょう。
うちなんか、塩漬けした野菜を水で塩を抜いて、酒粕をまぶしたら真空パックしてそれで出荷ですよ。それくらいやらないと、儲からないよ!?」

 同社のこだわりを揶揄するかのような声に、伊藤取締役は、毅然として語ってくれました。

「儲からなくても、『ほんもの』を守り続けていくというこだわりが大切なのです」

 同社の創業は明治後期です。
 既に100年以上、守口漬の伝統を継承しています。
 いづ藤漬物舗の守口漬は、舌の肥えた名古屋の財界人や文化人など、多くの方々から愛され続けてきました。そういった方々は、味はもちろん、伝統的な製法を守り続けている同社の歴史であり、文化も含めて、同社の守口漬をご愛顧いただいているのでしょう。

 お客様からの信頼を守るため、同社は「ほんもの」であることにこだわり続けているのです。

「不味いものは作りたくない」

いづ藤漬物舗の取締役である伊藤寿志子。いづ藤漬物舗および和泉の社長:伊藤嘉浩の母でもある。
いづ藤漬物舗の取締役である伊藤寿志子。いづ藤漬物舗および和泉の社長:伊藤嘉浩の母でもある。

 守口漬の伝統を守り、「ほんもの」を追求し続けるのは、何故か?
 同じ質問を、いづ藤漬物舗と和泉の社長を兼務する伊藤嘉浩にも尋ねました。

「『ホンモノの味を、守っていかなければならない!』と強い想いはあります。
ただし、それ以前に、不味いものは作りたくないですよ。不味いものを作ってまで商売をしたくはないです。
歴史とともに知られている、いづ藤漬物舗の名前を汚すようなことはできないです」

 いづ藤漬物舗、そして和泉でも、「ほんもの」を追求する理由が、ここにあります。
 お金では贖うことのできない、お客様からの信頼を守り続けるためには、「ほんもの」であり続けなければならないのです。

 本取材の後、筆者は瓜の味醂粕漬をお土産として頂戴しました。
 炊きたての御飯とともにいただいた、いづ藤漬物舗の守口漬の味に、衝撃を受けました。しゃきしゃきとした心地よい歯切れ、絶妙な塩加減、そして深い味わいと上品な香り...

 こんなに美味しい漬物を、私は食べたことがありません。
 この美味しさは、食べれば必ず伝わるでしょう。

 先日、東京都内のあるデパートの食品売り場にて、守口漬が販売されていました。試食しましたが、同社の守口漬とは、似ても似つかぬ商品でした。
 あえて乱暴な言い方をしますが、こんなものが守口漬として広まれば、守口漬そのものの品位を落とすことになりかねません。

 「ほんものを守る」という、いづ藤漬物舗のこだわりの大切さを、皆さんにもぜひ知っていただきたい思います。
 ぜひ、名古屋にお立ち寄りの際には、同社店舗を訪れ、ほんものの守口漬を味わってください。

 きっと、驚きますよ!

いづ藤漬物舗および和泉の社長:伊藤嘉浩(左)と、いづ藤漬物舗の取締役:伊藤寿志子(右)。
いづ藤漬物舗および和泉の社長:伊藤嘉浩(左)と、いづ藤漬物舗の取締役:伊藤寿志子(右)。

いづ藤漬物舗 店舗

いづ藤漬物舗

〒460-0003
名古屋市中区錦三丁目13番33号
TEL:052-961-0541
FAX:052-961-6764

営業時間:
平日 朝9時~夕方5時/土曜 朝9時~午後2時

定休日:
日曜・祝日



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