|
和泉'sブログ このサイトは、和泉の今をお届けするブログサイトです |
2022年から2025年にかけて段階的に施行される育児・介護休業法(以下、育介法)の改正を、「また法改正か...、とりあえず対応しないとね」と法令遵守だけの対象と考えるのはとても危険です。それは、同法の遵守は前提として必須ですが、改正育介法は、属人化の脱却を含め大幅な経営改善を求めるからです。さらに言えば、「育児は女性が行うもの、男性は仕事に集中すべし」という昭和的な発想から、経営者も、そして男性も強制的に脱却することも求められます。
改正育介法への対応は、もはや福利厚生を超え、優秀な人材を惹きつけ、維持し続けるための経営戦略そのものと考えるべきでしょう。
さらにもう1つ、育介法対応が難しい点は、従業員の意識改革を求める点です。
と言うのは、育介法対応の対応は、いわゆる「子持ち様」問題など、新たな課題を生んでいるからです。
今回の育介法改正は、特に「男性育休の促進」と「企業取り組みの透明化」に焦点を当てています。これらに関係する主な改正点をピックアップします。
| 項目 | 改正前(~2022年) | 改正後(2022年10月~2025年4月) |
| 男性の育休 | 育児休業(原則1回)のみ | 「産後パパ育休」の新設(出生後8週間以内に4週間まで・2回分割可) |
|
育児休業の分割取得(男女とも2回まで分割可) |
||
| 育休取得の周知 | 特になし | 個別の制度周知・取得意向確認の義務化(2022年4月~) |
| 育休取得状況の公表 | 従業員1,000人超の企業(努力義務) | 従業員1,000人超の企業(義務化)(2023年4月~) |
| 従業員300人超の企業(義務化)(2025年4月~) | ||
| 両立支援措置 | 3歳未満の子が対象 | 3歳未満の子:テレワークの努力義務 |
| 小学校就学前の子:短時間勤務、テレワーク等の代替措置の拡充(2025年4月~) |
※詳しくは、厚労省の「育児・介護休業法について」および「産後パパ育休」をご覧ください。
例えば男性の場合、産後パパ育休も含めると子どもが1歳になるまでに最大4回、業務の繁閑や家庭の状況に合わせて柔軟に休業を取得できる制度設計となりました。
つまり、「育児のために長期間休業する」というだけではなく、「家庭や育児の都合に合わせ、短期間の休業を何度も取得する」という選択肢を可能にしたのです。
育児休業者が出れば、その職場では誰かが休業社の穴埋めをしなければなりません。
「女性、外国人材の活躍に関する調査」(2022年9月、日本商工会議所)によれば、男性育休促進の課題として、なんと52.4%が「専門業務や属人的な業務を担う社員の育休時に対応できる代替要員が社内にいない」と回答しています。さらに35.7%が「採用難や資金難で育休時の代替要員を外部から確保できない」としており、半数以上の企業が「内部にも外部にも代替手段がない」八方塞がりの状態です。
さらに言えば、「男性社員自身が育児休業の取得を望まない」という回答も28.8%ありました。
これは少し古い調査結果なので、今同様の調査を行えばもう少し違う結果が出るかもしれませんが。
いずれにせよ、この結果を単なる人手不足の問題と捉えるのは間違いでしょう。本質的な病巣は、特定の個人がいなければ業務が回らない「業務の属人化」を、経営課題として長年放置してきた結果と考えるべきです。
育介法の改正は、「代替要員の補充」という対症療法だけではなく、「業務プロセスの抜本的改革(属人化の解消)」という体質改善を企業に強制しているのです。
「子持ち様」というネットスラングをご存知でしょうか?
これは、育児を理由で遅刻・早退や時短勤務、突発的な欠勤をする「子持ち」の従業員のことを、そのしわ寄せを被る従業員が揶揄・批判するために用いる言葉です。
例えば、「職場の『子持ち様』、『子どもが熱を出した!』って早退したけどさ、その尻拭いをさせられる私の苦労も考えてよね」と使われます。
もちろん、育児をしていれば子どもの都合で遅刻・早退や欠勤をすることはやむを得ません。またこういった権利が法律で認められれば、これを行使する人を批判することは妥当ではありません。
ただし、「子持ち様」と揶揄する人──すなわち休業者の業務を一方的に負担させられる「周囲の従業員」──が、深刻な不満と疲弊を抱えていることにも目を向ける必要があります。
制度の理想とは裏腹に、現場のオペレーション(人員配置や業務プロセス)が改善されなければ、休んだ人の業務は残った従業員の負担になります。このしわ寄せに対する評価や手当といったケアを企業が怠った結果、負担を強いられる側の不公平感が蓄積し、従業員間の分断を生み出しているのです。
「育休社員の『肩代わり手当・制度』の実態調査」(2025年9月9日、MS-Japan)は、この実態を浮き彫りにしています。育休や時短社員の業務を代替・支援した経験がある人のうち、実に77.6%が業務代替に「課題を感じたことがある」と回答しています。
さらに、「評価や報酬が不十分」(29.5%が)、「業務分担の偏りに不満を感じた」(25.6%)という回答からは、育児休暇等によって生じる現場の負担を、経営側がフォローすることなく、現場に丸投げしている実態が伺えます。
実際この調査では、業務を代替する社員への「肩代わり手当・制度」または「人員配置」という何らかの対応が「ある」企業は、わずか35.3%に過ぎませんでした。
ちなみに「子育てに関するアンケート調査結果」(2024年10月17日、明治安田生命)では、育休を取得した男性の割合が33.4%と過去の最高値を更新した一方で、職場復帰後に41.5%の男性が「気まずいと感じた」と答えています。
この結果は、「子持ち様」問題も関係しているのでしょう。
企業の対策不備に加えて、もう1つ、育休を取得する男性従業員側の意識とスキルという課題が生じています。
改正育介法では、男性が育児の「当事者」となることを求めていますが、現実には育休を「取得すること」自体が目的化し、育児に参加しない男性の存在が課題としてクローズアップされつつあります。
筆者は平均よりもだいぶ遅く子どもを授かりましたが、その際、「私はおむつ交換や沐浴をしたことがなかったが、今考えるとやっておくべきだったのであなたも積極的に手伝ったほうが良い」という趣旨のアドバイスを、複数の男性の友人から頂きました。
当人たちは親切のつもりでアドバイスしたのでしょうが、「今どき、そんな男性がこれほどいるのか!?」と驚いたものです。
産後の奥さまが求める、家事(例:料理、洗濯、掃除)や育児(例:沐浴、寝かしつけ)を行わず、育児の戦力として機能しない「取るだけ産休」は、家庭にも職場にも悪影響を生じかねさせません。
もはやイクメン(※子育てに参加する男性)は、褒められる対象ではなく、当然のことと男性は意識を変えるべきでしょう。
メリット(光の側面)
従業員エンゲージメントの向上(取得者層):
制度利用者および将来の利用者が「働き続けられる会社」と認識し、組織への愛着やコミットメントが向上する。(3)
人材の獲得と定着:
「両立支援」に取り組む姿勢を公表(2)することが、採用市場における強力なアピールとなり、優秀な人材の確保と離職率の低下につながる。
組織風土の改善:
全社で「お互い様」の精神(4)が醸成され、コミュニケーションが活性化する。
業務改革の強制力:
育休による「強制的な欠員」が、長年放置されてきた「業務の属人化」を解消し、多能工化や業務標準化を進める絶好の機会となる。(10)
デメリット(影の側面 / リスク)
従業員エンゲージメントの低下(周囲の従業員):
対策を怠った場合、業務の「しわ寄せ」が集中する従業員の不公平感と疲弊を招き、組織全体のエンゲージメントが著しく低下する。(7)
組織内の分断:
制度利用者(「子持ち様」)と周囲の従業員との間に対立構造が生まれ、組織の一体感が失われる。
オペレーションの混乱:
短期・反復的な育休に対応できず、業務プロセスが停滞・破綻する。
「取るだけ育休」による制度の形骸化:
男性育休が実質的な育児参加につながらない場合、制度への誤解や不信感が社内に広がる。
6. 総括:ジレンマを超えた「企業価値の向上」へ
育児・介護休業法の改正は、日本企業に「エンゲージメントのジレンマ」という重い課題を突きつけています。対策を誤れば、従業員間の分断を招き、組織を疲弊させる劇薬となり得ます。
しかし、このジレンマから目をそらしてはなりません。
法改正が要求する本質は、単なる「育休取得率」という数字合わせではなく、**「誰がいつ抜けても業務が回る、柔軟で強い組織」**への変革です。
「しわ寄せ」の根本原因である「業務の属人化」の解消(10)は、育休対応のためだけでなく、組織全体の生産性とレジリエンス(回復力)を高める経営改革そのものです。また、「肩代わり手当」や適切な評価(7)によって周囲の従業員の貢献に報いることは、取得者だけでなく「全従業員のエンゲージメントを強化する」という経営の意思表示に他なりません。
育介法への対応は、目先の「コスト」ではなく、組織の「病巣」を治療し、長期的な「企業価値の向上」につなげるための「投資」です。この変革の痛みを引き受け、ジレンマを乗り越える「覚悟」こそが、今、すべての企業経営者に問われています。
メリット(光の側面)
従業員エンゲージメントの向上(取得者層):
制度利用者および将来の利用者が「働き続けられる会社」と認識し、組織への愛着やコミットメントが向上する。(3)
人材の獲得と定着:
「両立支援」に取り組む姿勢を公表(2)することが、採用市場における強力なアピールとなり、優秀な人材の確保と離職率の低下につながる。
組織風土の改善:
全社で「お互い様」の精神(4)が醸成され、コミュニケーションが活性化する。
業務改革の強制力:
育休による「強制的な欠員」が、長年放置されてきた「業務の属人化」を解消し、多能工化や業務標準化を進める絶好の機会となる。(10)
デメリット(影の側面 / リスク)
従業員エンゲージメントの低下(周囲の従業員):
対策を怠った場合、業務の「しわ寄せ」が集中する従業員の不公平感と疲弊を招き、組織全体のエンゲージメントが著しく低下する。(7)
組織内の分断:
制度利用者(「子持ち様」)と周囲の従業員との間に対立構造が生まれ、組織の一体感が失われる。
オペレーションの混乱:
短期・反復的な育休に対応できず、業務プロセスが停滞・破綻する。
「取るだけ育休」による制度の形骸化:
男性育休が実質的な育児参加につながらない場合、制度への誤解や不信感が社内に広がる。
6. 総括:ジレンマを超えた「企業価値の向上」へ
育児・介護休業法の改正は、日本企業に「エンゲージメントのジレンマ」という重い課題を突きつけています。対策を誤れば、従業員間の分断を招き、組織を疲弊させる劇薬となり得ます。
しかし、このジレンマから目をそらしてはなりません。
法改正が要求する本質は、単なる「育休取得率」という数字合わせではなく、**「誰がいつ抜けても業務が回る、柔軟で強い組織」**への変革です。
「しわ寄せ」の根本原因である「業務の属人化」の解消(10)は、育休対応のためだけでなく、組織全体の生産性とレジリエンス(回復力)を高める経営改革そのものです。また、「肩代わり手当」や適切な評価(7)によって周囲の従業員の貢献に報いることは、取得者だけでなく「全従業員のエンゲージメントを強化する」という経営の意思表示に他なりません。
育介法への対応は、目先の「コスト」ではなく、組織の「病巣」を治療し、長期的な「企業価値の向上」につなげるための「投資」です。この変革の痛みを引き受け、ジレンマを乗り越える「覚悟」こそが、今、すべての企業経営者に問われています。