自動車バンパー用エアセルマットが出来上がるまで

 皆さん、エアセルマット(気泡緩衝材)を使用した梱包用製品の中で一番販売金額の大きい(売り上げの高い)梱包対象物は何かご存知でしょうか?

 実は自動車のバンパーなんです。

 バンパーの梱包用にエアセルマット(気泡緩衝材)を使った製品は現在、国内のみならず世界中で使用されています。
 そして、バンパ-梱包用にエアセルマット製品を開発し最初に採用されたのはなにを隠そう当社であります。

今回は、そんなバンパー梱包の用途開発にまつわるお話をご紹介しましょう。

ゼロエミッションへのチャレンジ

 かれこれ15年以上前、大手自動車メーカー様からバンパーの梱包に使用できるエアセルマット製品を考えてほしいとのご依頼がありました。
 当時は、環境問題や地球温暖化がクローズアップされ始め、各企業が「ゼロエミッション」を掲げて、ゴミの排出削減に取り組み始めた頃でした。

 ゼロエミッションとは、「産業界における生産活動の結果、水圏、大気圏や地上圏等に最終的に排出される不用物や廃熱(エミッション)を、他の生産活動の原材料やエネルギーとして利用し、産業全体の製造工程を再編成することによって、循環型産業システムを構築しようとする試み」(平成9年版環境白書/環境省)のことです。

 各企業が使用する梱包材料の中で、もっともたくさん使用されているものは、断トツで段ボールです。
 段ボールは、使い勝手が良く、リサイクルプロセスが整備されているというメリットがある反面、重量が重く、かさばるというデメリットがあります。
 段ボールよりも軽く段ボール同様リサイクルできる製品であれば、使用済み梱包資材の排出削減にもつながります。

 御多分に漏れず、自動車のバンパーもすべて段ボールで梱包されていました。
 一般的な製品に比べ、大きく、わん曲している自動車のバンパーには、舟形といわれる特別な組式段ボールが使用されます。これは、在庫スペースを取り、輸送においても効率の悪いものでした。

 従来の段ボール梱包に比べ、ゴミの排出削減にもなり、在庫スペースや物流コスト削減が期待できるとして、エアセルマットに白羽の矢が立ったのです。

製品化への苦労

 最初のユーザー様からのご要望は、サーフボードケースのようなイメージで、何回も繰り返し使用できるリターナブルボックス(通い箱)でした。
 そこで表面に布を使用し、内側に厚く丈夫なエアセルとアルミ蒸着フィルムを貼り合わせたものを縫製加工したものを試作いたしました。
 また、エアセルマット単体では保管や輸送において段ボールのように段積積載出来ないので専用の収納容器も同時に考えて試作いたしました。

 この試作品、モノはとても良かったのですが、運用まで考えると、いくつかの課題が顕在化します。

 高価であったことも課題のひとつ。
 また、補給用のバンパーへの梱包使用が目的なので、輸送先は販売店(ディーラー)になります。そうなると、リターナブルボックスの役目上、物流センター→共販→販売店(ディーラー)間での往復輸送輸送が発生しますが、梱包製品が確実に戻ってくるのか?、という課題もありました。

 メンテナンスも重要です。
 梱包製品が汚れたり、ホツレたりした時、どこがどのようにメンテナンスの責任を負うのか、これも大きな課題のひとつでした。

 議論は進まず、結果この話自体が断ち切れになってしまいました。

 しかしながら、この間にもゼロエミッションを旗印に、様々な自動車の補給部品を重い段ボール梱包から軽いエアセルマット梱包に切り替えていきました。
 そして、行き着いた結論は、懸案のバンパーを切り替えなければ、大きな排出削減効果が得られないということでした。

リターナブルからワンウェイへの発想転換

 今度は再利用ではなく、ワンウエイでの仕様を検討しようということになりました。エアセルマットの他、空気充填製品(エアー緩衝材)や発泡シートなど色々な材料の中から検討を行いましたが、結局、丈夫さ、使いやすさ、加工しやすさがポイントとなりエアセルマットでの仕様に絞られました。
 そこから、様々な形状の検討、加工方式、使用する材料の選定が始まりました。

 書けば一文ですが…、何度も何度も、試作や材料検討を繰り返しました。
 ある時は、自動車のプラモデルを購入し、バンパー部分を、試作したミニエアセルをかぶせてみたこともありました。

 材料が決まり、加工形状も製袋品に決定、縦入れ仕様と横入れ仕様、それぞれの試作品を作成し、ユーザー様のパーツセンターで、実製品を使用した梱包テストを実施しました。
 現場作業者の方から横入れ仕様の試作製品を梱包した時に、『これはピッタリだ』と言われたことが今も思い出されます。

 その一言で、横入れ仕様と決まったのです。

専用貼付テープの開発

 平らな製袋品に、バンパーのようなアーチ形の立体モノを入れていくためには、エアセルマットの生地を寄せながら包んでいかなくてはなりません。実際にバンパーを梱包してみると、形状に合わせて端っこをくしゃくしゃやりながら梱包するので、破損しやすい端面の緩衝効果はかえって上がるという評価をもらうことができました。
 くしゃくしゃすることにより緩衝力は上がりますが、しかし今度は封緘が困難になることが判明しました。

 求める封緘を実現するためには、エアセルマットにテープを貼り付け固定する必要があります。しかし、十分に封緘できる貼り付け能力を備えたテープが、既製品には見当たりません。
 そのため、専用のテープ開発をしなくてはならなくなりました。

 ユーザー様の要求仕様は、以下のとおりです。

  1. 梱包時、封緘に失敗した時に貼り直しが効くように初期粘着は若干弱いこと。
  2. 変形の立体形状の為封緘しても反発が強くはがれてしまう可能性があり、いったん固定すれば時間の経過とともに粘着力が強固になること。

 両面テープのメーカー様に駆け込み、この要求仕様を投げかけたとき、その担当者が頭を抱えたことは、今でもはっきりと覚えています。
 これも何度も試作を繰り返し、エアセルマットと相性の合う、これまでにない最強のテープが出来上がりました。

 さらに、段ボールと同様に商品価値という観点から、エアセルマットにロゴ印刷や梱包時、注意喚起表示印刷を入れることになりました。
 印刷フィルムをエアセルマットにラミネートする仕様で進めることになりましたがエアセルマットとの相性、両面テープの粘着力を阻害しない仕様、そんなフィルムや印刷インクにもこだわり、印刷フィルムを仕上げていきました。

 いよいよ対象となる車種を選び手作りで10種類各20枚くらいの試作品を作成し実際にバンパーを梱包するテストを行いました。
 結果、梱包効率は段ボールよりもよくなり、輸送時の積載効率が確実に上がることが分かりました。

 ただしエアセルマット梱包は座りが悪いので、パレットや集合包装容器の工夫が必要になりました。

ゼロ・エミッション/循環型産業システムの構築へ

 最後に残った課題は、使用済みのエアセルマット処理ルートの構築です。
 段ボールは再生ルートが確立されていますが、エアセルマットでも再生ルートを構築しなければ、ゼロ・エミッションは実現できません。

 エアセルマットをマテリアルリサイクルし、再利用する嫁入り先を探すことになりました。
 いろいろ右往左往はしましたが、最終的に再生処理の企業を巻き込み樹脂のパイプとして成形し、再利用化することになりました。

いよいよフィールドテストへ

 最終段階としてエアセルマットを市場に出してフィールドテスト行うこととなり、明らかになった問題点は、その都度改良を進めていきました。
 例えば、バンパーを車体に装着した際の端部の出っ張りが損傷しやすいことが分かり、バンパー用には、小さな袋を作り端部用に別パーツとして取り付けるなど工夫を凝らしました。この小袋は、エアセルマットを加工する際に発生する端材を利用しています。

 フィールドテストの結果を受け、いよいよ一部のバンパーを切り替えることになり、バンパー用エアセルを専用に加工する製袋機の発注も行うことになりました。
 効率よく加工するためにシールバーや冷却構造、シール線の工夫も行い、2006年製袋機は完成しました。その後納入数量は徐々に増えていったのです。

エアセルマットによるバンパー梱包は、業界のスタンダートへ

左は段ボールによるバンパー梱包、右はエアセルマットによるバンパー梱包。
左は段ボールによるバンパー梱包、右はエアセルマットによるバンパー梱包。

 段ボール梱包の場合、バンパーの種類に応じてサイズ・形状を変更する必要がありました。そのため、ほぼ一点一様の仕様が必要となり、段ボール梱包では、なんと400種類以上ラインナップされていました。
 しかし、エアセルマットの場合は、共有化ができるため、ラインナップは100種類以下、管理面でも省力化ができました。

 段ボール梱包の代替として、エアセルマットによるバンパー梱包の使用事例は、国内の自動車メーカーが集まる自工会で発表されました。

 その後、各自動車メーカー様は、各自の使用用途に合わせオリジナル仕様を検討し、エアセルマットを使用した製品をバンパー梱包に展開するようになったのです。

 

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