バイオプラスチックの深~い話 ──、和泉は、なぜバイオマスプラスチックを採用したのか?

 皆さまこんにちは!、暑い夏がやってきました。

 暑いだけならまだしも、最近は「観測史上最大の降水量」とか、「最大級の台風」など、大きな災害をもたらす異常気象に関するニュースを、たびたび耳にするようになってきました。
 異常気象をもたらす要因のひとつが、日本近海の海水温の上昇です。これは地球温暖化に起因する気候変動と言われています。

 現在、地球温暖化をもたらす温室効果ガスの排出を抑制しようと、世界各国が取り組みを進めています。

 2020年10月26日第203回臨時国会の所信表明演説において、菅内閣総理大臣は、『2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す』と延べました。

 カーボンニュートラルについて、環境省は以下のように定義しています。

 

市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガス排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態をいう。

カーボン・オフセット フォーラム(環境省)
http://offset.env.go.jp/about_cof_cn.html

 

 かんたんに言えば、企業活動などによって算出される二酸化炭素排出量を、植林活動や二酸化炭素排出権の購入などによって帳尻をつけて、プラスマイナスゼロにすることです。

 

 今、和泉の主力商品であるエアセルマットが、主原料としているプラスチックは、二酸化炭素を排出する製品のひとつとして、使用量の削減を求められています。レジ袋の有料化は、プラスチック削減施策のなかでも、広く知られるものです。

 環境省は、カーボンニュートラル・脱炭素社会実現に向けて、石油由来プラスチックの代替品として、バイオプラスチック導入促進を推進していることから、和泉もバイオマスプラスチック原料を30%以上使用したナノ2エアセルマットの販売を開始しました。

 今回は、そのバイオプラスチックに関して、深~い話をお伝えしたいと思います。

バイオプラスチックの定義

バイオプラスチック、バイオマスプラスチック、生分解性プラスチックの関係 ※画像はクリックで拡大します
バイオプラスチック、バイオマスプラスチック、生分解性プラスチックの関係 ※画像はクリックで拡大します

 バイオプラスチックは、微生物によって分解される『生分解性プラスチック』およびバイオマスを原料製造される『バイオマスプラスチック』の総称です。

 生分解性プラスチックとは、プラスチックとしての機能や物性を備えた上で、ある一定の条件下において、自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって分解し、最終的には二酸化炭素と水にまで変化するプラスチックを指します。

 バイオマスプラスチックとは、植物などの再生可能な有機資源を原料とする、プラスチック素材を指します。

 

 バイオマスプラスチックは、カーボンニュートラルの観点から注目されています。
 バイオプラスチックの原料となる植物などは、大気中の二酸化炭素を吸収して成長します。したがって、バイオプラスチックを処分する際に排出される二酸化炭素は、もともと大気中に存在したものですから、大気中の二酸化炭素を増やすことにはならない(=カーボンニュートラル)わけです。

世界のバイオプラスチック製造能力

 欧州バイオプラスチック協会(EUBP)によると2019年の世界のバイオプラスチック製造能力は211万トンであり2024年には242万トンに拡大すると推計されています。
 約30万トンの増加分のうち、その大部分をPP(ポリプロピレン)1.9万トン⇒12.8万トンおよびPHA(プリヒドロキシアルカノエート)2.5万トン⇒16万トンが占めています。

日本におけるバイオプラスチック製品等の導入状況

 2018年度の調査結果によるとバイオマスプラスチック製品の国内出荷量は8.4万トン、その中に含まれるバイオプラスチック量は4.7万トンです。
 セルロース系、バイオPE、バイオPET、コンポジット系、バイオPA、PLAの順に出荷量が多く、まだまだバイオプラスチック製品の導入は多くないことが分かります。

気泡緩衝材『ナノ2エアセルマット』に使用しているバイオPE

 和泉の気泡緩衝材『ナノ2エアセルマット』に使用されているバイオプラスチックは、Braskem社(ブラジル)のバイオPE(グリーンポリエチレン)を30%以上使用しています。

 和泉が、生分解性プラスチックではなくバイオマスプラスチックを採用したことには、もちろん理由があります。

 和泉のエアセルマットを国内において廃棄する場合は、原則として土中埋め立てではなく、焼却処分が行われることから、二酸化炭素排出削減に重点をおきました。
 エアセルマットにおける品質管理の観点から、生分解性プラスチックには大きな問題がある点を考慮したことも、理由のひとつです。

 さらに、採用したBraskem社のバイオPE(グリーンポリエチレン)の原料および製造工程を精査したところ、環境負荷が低く信頼性のおける製品であることも、採用理由の大きな点です。

 

 Braskem社のバイオPEの原料は、サトウキビです。
 一般論ではありますが、人の食料や家畜の飼料となるとうもろこしやサトウキビなどの農作物を、バイオマスプラスチックやバイオエタノールなどの原料とすると、食料競合の問題が発生します。本来ならば、食料や飼料になるはずの農作物を、バイオマスプラスチックやバイオエタノールなどに用途変更するわけですから、食料・飼料の供給量が減ってしまうわけです。

 しかし、Braskem社では、サトウキビから食料として砂糖を採取した後に残る、本来は廃棄している部分から得た、廃糖蜜を利用して発酵プロセスによりバイオエタノールを生産、バイオエチレンを精製し、重合工程を経てバイオPE(グリーンポリエチレン)を製造するので、食料競合は発生しません。

 さらに、Braskem社のバイオPE製造について、LCA(ライフサイクルアセスメント)分析を実施したところ、同社のバイオPEは原料栽培から樹脂製造の工程において3.09KgCO2/Kgの二酸化炭素を吸収すると推計されました。(二酸化炭素排出量は、マイナス3.09KgCO2/Kgということになります)
 荒廃した牧草地にて栽培されるサトウキビは、土壌回復に寄与していることが示されています。また、サトウキビの非可食部であるバカスをエネルギー利用すると、製造プロセスで消費されるエネルギーの80%を、再生可能エネルギーとしてリサイクルできるとされます。

 ただし、課題もあります。
 バイオエタノールからバイオエチレンを精製する工程の歩留まりは、50%程度で、生産効率は決して高くありません。
 石油由来のポリエチレンでは、ナフサからの製造工程において、エチレンの他にメタン、エタン、プロピレン、ブタジエン等が製造できるため、無駄が少なく、歩留まりは高い水準にあります。
 こういった事情もあり、バイオPEは、製造コスト面で石油由来のポリエチレンよりも高く、市況価格では石化PEの倍以上とされています。

 ちなみに、Braskem社のバイオPE製造工程において、歩留まりを下げる原因、すなわち、バイオエチレンの他に約50%発生してしまう物質は、水です。これも、Braskem社のバイオPEが、環境に優しいポイントです。

 

 環境負荷を軽減できるというメリットを持つ反面、コストが高いというデメリットも持つ、バイオマスプラスチック。
 利用する側としては、意見が分かれるところだと思います。

 しかし、和泉としては、政府の打ち出したカーボンニュートラル実現に向けて、少しでも貢献できるよう、『ナノ2エアセルマット』の販売拡大を強く推し進めていきたいと考えています。

 

最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

改善提案推進部 岩崎 修

 

参考

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