物流クライシスの現在地──なぜトラックが見つからないのか?

「ホント、トラックが見つからなくなったよね…」──こんな声を耳にすることが増えています。

ある会社ではチャーター便を探しても、「最近ではすぐに対応してくれる運送会社が見つからない」と嘆いています。「『来週だったら運べますけど』と言ってもらえたら、御の字だと思わなきゃ」と担当者はぼやいているそうです。

 

かと言って、路線便だったら確実かと言えばそういうわけでもありません。
別の会社では、路線便事業者から「荷物のお届けは3日後になりますけどよろしいですか?」と言われてしまったそうです。

「物流の2024年問題」で懸念されたような極端な物流クライシスは発生していませんが、しかし少しずつ、しかも確実に「モノが運べない」物流クライシスは広がっています。

「物流の2024年問題」を振り返る

 まずは、「物流の2024年問題」を振り返りましょう。
 2022年11月に開催された「持続可能な物流の実現に向けた検討会」(国土交通省・経済産業省・農林水産省)では、シンクタンクによる以下の見通しが発表されました。

  • 2024年度には、14.1%、4.0億トン相当のトラック輸送リソースが不足する
  • 2030年には、34.1%、9.4億トン相当のトラック輸送リソースが不足する

 この数字は政府の公式な見解となり、一般メディアでも広く取り上げられました。

 

 しかし実際はどうでしょうか?
 皆さまは、14.1%もの荷物が運べなくなったような実感はありますか?

 メディアや識者の中には、「大騒ぎした割に、『物流の2024年問題』は発生していない」と断言する方まで出てきました。

 確かに、「ブラックフライデーの時に、Amazonで注文した商品が配達されるまでに1週間以上かかるようになった」といった声は聞きますが、物流クライシスの影響は極めて限定的であったと考えられます。

 

 「物流の2024年問題」は、働き方改革関連法によって、トラックドライバーの時間外労働時間(残業時間)に、「年間960時間まで」という上限規制が課されたことによって生じました。
 しかしながら政府が2024年12月に発表した資料によれば、「2020年度と2024年度を比べると、トラックドライバーの平均拘束時間は12時間26分から11時間46分と40分しか減少していない」ということが判明しています。

 この結果からは、以下のことが分かります。

  • 2020年度の実績(1日あたりの平均拘束時間12時間26分)を換算すると
    • 年間250日勤務(完全週休2日想定)で、年間の総残業時間は858時間20分
    • 年間260日勤務(隔週土曜日出勤想定)で、年間の総残業時間は892時間40分
  • 割合にすると、5%しか拘束時間は減っていない

 つまり、「物流の2024年問題」に抵触するような運送会社であり、ドライバーは、やや例外的な存在であったと考えられます。

 

 「だったら、冒頭に挙げたような『モノが運べない』物流クライシスが起きるわけがないよね?」──はい、確かにそのとおりです。

 筆者、実は表看板は物流ジャーナリストを名乗っています。
 筆者の取材経験から、現在の物流クライシスの原因を、さらに深堀りして考察します。

「物流の2024年問題」の本質は、残業時間規制ではなく、労務コンプライアンス?

 多くの方は、「物流の2024年問題」=「残業規制の問題」と捉えています。
 しかし今、この問題を改めて紐解くと、「モノが運べない」事態を引き起こしているのは、むしろドライバー特有の労務規定であると考えられます。

 トラックドライバーに限らず、タクシードライバー、バスドライバーなどの職業ドライバーには、改善基準告示という労務規定が課されています。
 労働基準法によって労働者は、例えば「8時間の労働時間中に、1時間の休憩を取得すること」といった労務規定が定められていますが、改善基準告示ではさらに厳しい規定が定められています。
 そして改善基準告示は、働き方改革関連法の改正と同じ2024年4月1日に、より厳しい内容に改正されました。

 その主な内容を挙げましょう。

  • 連続運転に関する規定
    4時間運転したら30分休憩しなければならない。(通称「430」)
  • 1日の拘束時間
    改正前は16時間以内だったが、15時間以内に変更された。
  • 1ヶ月の拘束時間
    320時間以内から310時間以内へ変更。
    加えて、「1ヶ月の時間外・休日労働時間数が100時間未満とする努力義務」と「284時間超は連続3ヶ月まで」という規定が追加された。
  • 1日の休息時間(インターバル)
    継続8時間以上から「努力義務は11時間以上、義務は9時間以上」に変更された。

 このように、より詳しく、そして細やかな労務規定へと改正されました。

 

 これまでトラックドライバーは、「荷物が多ければ残業をする」ことで物量波動に対応してきました。年末年始や年度末などの繁忙期には、ドライバーに長時間労働を強いることで対応してきたわけです。
 しかしながら2024年4月の改善基準告示改正後は、「荷物が多ければ残業をする」ことができなくなりました。これは、先に挙げたような平均拘束時間といった大枠での定量的な指標では見えない部分です。

 結果、運送会社は「年間で労務管理規定の帳尻を合わせればOK」という考え方から、「月単位、あるいは週単位で改善基準告示をクリアする運行」へと考え方を改めざるを得なくなりました。

 

 冒頭、こんなエピソードをご紹介しました。

  • 路線便事業者から「荷物のお届けは3日後になりますけどよろしいですか?」と言われてしまったそうです。

 これは、路線便事業者が「多少の長時間労働も、年間で帳尻を合わせればOK」という考え方から、「厳密に改善基準告示を遵守できる運行ダイヤグラムにしなければならない」という考え方に変わった結果、運行本数が減った(あるいは増便が難しくなった)からだと考えられます。

 加えて、昨今ではホルムズ海峡問題などによって燃料代などが高騰しています。こういった事情からコストを抑え、利益率を改善するため※に、「一定量の荷物をまとめてトラックを走らせられるよう、運行本数を減らすようにダイヤグラムを変更した」ということもあるでしょう。

 

※注記
路線便では、荷物1個に対し運賃が発生します。よって一定量の荷物が集まらないと、赤字でトラックを走らせることになります。
これを防ぐために、「今までは毎日トラックを走らせていたけど、これからは3日に1運行しかしない」といったダイヤグラムの見直しを行っています。

路線便以外の運送会社の事情は?

 路線便事業者以外の、つまり一般的な運送会社においても事情は同じです。
 改善基準告示が厳しくなり、かつ罰則(※営業停止などの行政処分)も厳しくなったため、より安全マージンを取った運行計画を立案せざるを得なくなりました。

 つまり、今までであれば「もし渋滞にハマったらアウトだけど…、まあしょうがないか」と考えて運行計画を立案していた運行管理担当者(配車マン)も、「いやいや、こういった考え方は、もうダメだよね」と意識を改めています。

 もうひとつ、ドライバー側の感じ方も変わってきています。
 ある運送会社の社長は、長時間労働を改める方針を打ち出したところ、最初はドライバーから「残業代が減ってしまう!」と不満の声が挙がったと言います。ところが実際に長時間労働を是正した運行に変更したところ、「身体が楽になりました」「もう昔のような働き方には戻れないです」と言われるようになったそうです。

 「50代以上のドライバーって、もう身体に無理が効かないんですよ」──この社長は、ドライバーの本音をこのように説明します。

 2024年におけるドライバーの数は、約86万人。
 そのうち、50代以上が51.0%を占め、逆に30代以下は24.2%です。10年前の2014年は、50代以上のドライバー割合が36.4%だったことを見ても、ドライバーの高齢化が進んでいることが分かります。

 

 「今日は長時間労働になるけど、頑張って!」──こういった働き方は、高齢化が進む運送業界では厳しくなりつつあります。

運送会社が荷物を選ぶ時代へ

 改善基準告示のようなコンプライアンスを遵守する経営を目指すのは、運送会社にとってはかんたんなことではありません。
 運送会社は「◯◯から△△まで、明日の◯時までに荷物を運んでね」と依頼される側です。お客さまである荷主は、運送会社側のコンプライアンスを考慮して依頼をしてくれるわけではなく、あくまでお客さま自身の希望を伝えてきます。

 こうなると運送会社側は、コンプライアンス遵守が可能な荷物だけを取捨選択するしかありません。
 さらに言えば、運送会社にとって「コンプライアンスを遵守しやすい荷物(運行)を依頼する荷主」は、より貴重な存在です。よって、スポットや一見のお客さまの優先度は、以前にも増して低くなります。

 実際、筆者の取材経験では、中小を中心に多くの運送会社が「お客さま(あるいは「荷物」)を取捨選択する」ことで業務改善・経営改善を行う実態が見えています。

 これにより、以下のような問題が生じています。

  • 意図してコンプライアンス違反の運行を強要する(「休憩の取れない長距離運行を強要する」など)ような悪質なケースでなく、ごく普通の輸送依頼であっても、運送会社側の都合で断られてしまうケースが増えている。
  • 荷主側からすると、「運送会社側が望む輸送依頼」が見えない。
  • 運びにくい荷物は、どうしても敬遠されてしまう。

 運送会社側も、「配送日を3日後にしてくれれば運べますよ」といった逆提案をしてくれればよいのですが。「荷主に反論してはいけない」と思い込んでいる運送会社も多く見受けられます。

 

 もしあなたが「モノが運べない」と感じることが増えてきているのであれば…。
 「もし◯◯だったら、運んでくれますか?」というように、具体的に輸送条件の緩和を運送会社側に相談してみると良いかもしれません。

 

 政府が推し進める物流革新政策を背景に、運送産業は大きく変わろうとしています。
 運送会社が荷物を選ぶ時代になったからこそ、荷主の側も意識を変えて、運送会社に寄り添う姿勢が求められるようになっているのです。 



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