【勉さんのちょっといい話】ブラック企業を生むのは、誰なのか?

戦後昭和を舞台にした映画を観ていたら、当時のサラリーマンが働いているシーンがありました。
もうもうとタバコの煙が燻る事務所。登場人物たちは咥えタバコで電話をかけまくる。深夜になっても書類の山をかき分けるように仕事を続ける描写は、高度成長期の象徴として差し込まれたシーンなんでしょうが...。もし今、同じことをやったら、間違いなくブラック企業ですな。

さて、今回はブラック企業について考えてみましょう。

2013年、「ブラック企業」が新語・流行語大賞を受賞しました。
「ブラック企業」という言葉自体は、以前から使われており、2008年には『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 』という本も話題になりました。

調べてみると、「ブラック企業」という言葉が使われ始めたのは、2000年代に入ってからのようです。IT企業の、特にSEたちがネットスラングとして使い始めたの発祥のようです。当時は、「IT企業定年35歳説」なんていうのが、SE(システムエンジニア)たちの間で囁かれていました。あまりに過酷な労働を強いられ、消耗品としてポイ捨てされる存在だったSEは、その過酷さ故に35歳以上では働けない(もしくは35歳までにSEを辞めたい)という思い(事実かな??)から、「IT企業定年35歳説」なんて説が生まれたんでしょうな。

当時注目されていたITベンチャーの中には、創業10年を超えているのに、「弊社は社員の平均年齢が28歳の若く活力のある会社です」なんて、自ら定着率が悪いことを喧伝してしまう、少々オツムの足りない企業もありましたなぁ...

まあ、ブラック企業という言葉によらず、また冒頭の例を挙げるまでもなく、昔からブラック企業という存在はあったわけです。
ただし、冒頭に挙げたような、戦後から高度成長期あたりの日本は、外国に追いつけ追い越せと言われていた時代です。サラリーマンも、ガムシャラに働くこと、遅くまで働くことに、歪んだ優越感を感じ、「うちの会社は、俺が支えているんだ!」なんて自負を持っていました。

日本を先進国の仲間入りにさせる。
そんな意識が、サラリーマンたちを過重労働に駆り立てていたように感じますな。

 

ブラック企業、なんて言葉が生まれてきた背景には、景気の鈍化があるように思います。
「外国に追いつけ追い越せ! 先進国の仲間入りをするんだ!!」なんて言っていた頃は、儲けるためには手段を選ばず、国も企業もがむしゃらだったんでしょう。
ところが、日本の経済的成長とやらが頭打ちになってくると、政府は「国民を守るんだ!」なんて建前を言い始め、法律やら規制やらを出し始めた。

本当かな~?

私は疑問に感じることもあるのですが...

 

ところで、自分の会社がブラック企業であると認識している経営トップは、どれくらいいるんでしょうな?
私の知る範囲では、意外と自社=ブラック企業であることを知らないトップも多いのでは?、と感じます。逆に、自社がブラック企業であるかどうかを認識しているのは、中間管理職が多いのではないでしょうか?

何故か?
中間管理職にある人の中には、会社のため、もしくは自分の将来のために、『自分よりも弱い立場の者』に無理難題を押し付けてくる人種がいる。一方で、トップは現場を知らないし、そういった情報も入ってこない。件の中間管理職だって、自分の都合の悪いことは報告しませんな。
こうして、ブラック企業の一丁上がり...というわけです。
これは体質的なものだから、根本的な脱却を図らない限り、変わりません。

ん?、『自分よりも弱い立場の者』って、誰のこと?
一例を挙げますか...

運賃タリフというものがあります。これは運送会社が運賃を表にまとめたもので、運送会社は事業を行う上で必ず用意しなきゃならないものです。ただ、いちいち作るのは面倒だったり手間なので、国土交通省は「一般貨物自動車運送事業貸切運賃料金」なるものを用意しています。これが事実上の標準運賃...のはずだったのですが。

この運賃タリフについて語りだすとキリがないですがね。
ほとんどの大企業は運賃タリフを大幅に下回る運賃で、運送会社を働かせている現実があります。
「安定した物流と量の確保」なんて殺し文句(脅し文句かな?)を盾に、運賃タリフを下回る安い運賃で、運送会社を利用しているんですな。逆に言えば、運送会社は安い運賃で仕事を引き受けざるを得んのですよ。下請け、孫請け、ひ孫請け...なんて運送会社は、悲惨ですよ。

ブラック企業にならざるを得ませんわな、こういう運送会社は...
下請法に違反件数を見ると、運送会社が苦しめられている状況が、より分かります。昨年(平成28年)度、下請法違反件数は、勧告11、指導6302で、過去最悪の結果となりました。
違反内容は、製造業務に関わる違反(製造委託等)と、システム開発や役務提供に関わる違反(役務委託違反)に二別されます。違反件数を見ると、製造委託等は全体の70.6%、役務委託等は全体の29.4%でしたが、役務委託等だけを見ると、23.3%が運送事業者に対する下請法違反となっています。ちなみに、委託等役務で一番いじめられている(と言ってしまいましょうか)業界は、情報通信業で運送事業社を上回る29.2%となっています。

 

大手企業から低価格運賃を強制される運送会社は、ブラック企業にならざるを得ません。
大手のしわ寄せを、弱い立場の運送会社やら下請企業が被っている。
そして、泣くのは結局、そういった弱い立場の企業で働く従業員たちですな...

労働基準法やら下請法やら何やらありますが、まずは大企業が遵守しないかぎり、ブラック企業はなくならないと思います。
国が本腰を入れてブラック企業の撲滅に取り組み、そして大企業がしめさないと、ブラック企業がなくなることはないでしょうな。

 

ブラック企業を生むのは誰なのか?
もちろん、ブラック企業のすべてが、大企業に責任があるわけではないでしょうが。
でも、日本という国からブラック企業を本気でなくしたいのであれば、大企業が果たすべき責務はとても大きいのではないかと、私は思うのです。

参考リンク

平成28年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等(公正取引委員会)
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/may/170524.html

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