「ごみ非常事態宣言」から約20年、「環境首都なごや」を目指す名古屋市の今 【環境マスターの独り言】

 前回お届けした「新プラ法に先駆け、製品プラスチックの回収と再資源化を進める日野市の取り組み」、ご覧いただきましたか?

 現地で取材を行ったため、具体的な作業内容がとてもよく理解できました。その上で、一人ひとりが取り組むべきことも考えさせられた、おもしろい記事ではないでしょうか。
 現在はごみ対策の先進自治体として注目される東京都日野市も、1999年の時点では、可燃ごみは多摩地区ワースト4位、不燃ごみは多摩地区ワースト1位、リサイクル率は多摩地区ワースト1位と、お世辞にも褒められた状態ではなかったことが、記事では取り上げられています。そこから一念発起し、市民と行政が手を取り合い、ゴミの減量やリサイクルなど、ごみ対策を進めていったことは素晴らしいことです。

 実は、私が住み、そして当社の本社もある愛知県名古屋市は、今でこそ「環境首都なごや」を目指すごみ対策の先進都市なのですが、奇しくも日野市がごみ改革開始を決めたのと同時期の1999年に「ごみ非常事態宣言」を発表するほど、ごみに追い詰められた街なのです。

(改善提案推進部 木股諭)

アイキャッチ ごみ非常事態宣言から約20年、名古屋市はどうなったのでしょう

名古屋市の「ごみ非常事態宣言」とは

名古屋市におけるごみ処理量の推移

 名古屋市が、「ごみ非常事態宣言」を発表したのは1999年2月です。
 ことの発端は、不燃ごみ・焼却灰の次期埋立処分場の建設事業を中止したことでした。

 次期埋立処分場の建設予定地であった藤前干潟(愛知県名古屋市港区および海部郡飛島村)は、渡り鳥の飛来地として名を知られており、2002年にはラムサール条約に登録されています。環境保護を鑑みての決断だったのです。

 当時発表された「ごみ非常事態宣言」には、このようにあります。

「快適で清潔な市民生活の確保と自然環境の保全、これらの両立をいかにして図るべきか、熟慮に熟慮を重ねた末の苦渋の決断です。(中略)

 従来の名古屋市の取り組みに対して様々なお叱りをいただいております。そんなに大変ならなぜもっと早く訴えなかったのか、そんなご意見もいただいております。(中略)

 そうして反省も踏まえて切にお願いいたします。あと2年、今世紀のうちに少なくとも20万トンのごみ減量を実現し、バブル期以前のごみの量に減らしたいのです。そのために、市民・事業者の皆さまのご協力と創造的な取り組みを、切に切にお願い申し上げます(後略)」

 ちなみに、1998年の名古屋市のごみは、99万7,000トンです。
 わずか2年間で20%のごみ減量を果たさないと、物理的にごみを捨てる場所がないという切迫した状況に、名古屋市は追い込まれたのです。

 しかし、名古屋市はこの難しいミッションを見事やり遂げました。
 2000年8月から始まったプラスチック製・紙製容器包装の収集などが功を奏し、2001年3月末までの2年間で目標を超える23%の減量に成功したそうです。
 徹底した分別・リサイクルの取り組みにより、2020年時点では1998年と比較し、資源分別量は約2倍、ごみ処理量は約41%減、埋立量は約90%減、となっています。

藤前干潟の今

結果、藤前干潟は、現在も豊かな自然を保ち続けています(2019年11月撮影)
結果、藤前干潟は、現在も豊かな自然を保ち続けています(2019年11月撮影)

 守られた藤前干潟は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地として、2002年にラムサール条約に登録され、環境学習の場として多くの人が訪れています。鳥類が172種類、底生生物(貝、カニ、ゴカイなど)は174種類が年間を通して確認されているそうです。
 また藤前干潟には、餌をとったり羽を休めたりするために世界各国から渡り鳥が訪れ、ときには1種で3万羽にまでなることもあるそうです。

 この豊かな干潟を守ることができたのは、ごみ非常事態宣言の発表を名古屋市が決断し、行政、事業者、そして市民が、それぞれごみ問題と真摯に向き合った努力が報われた結果です。

「環境首都なごや」の取り組み

 名古屋市は「環境首都なごや」を目指し、「もったいない」の心でごみも資源も元から減らす、と様々な取り組みを実施しています。

リデュース(発生抑制)の推進

  1. レジ袋有料化
     全国一律でレジ袋有料化が実施された2020年7月に先んじること約20年、名古屋市では2001年5月から市民団体・事業者団体・学識経験者・名古屋市で構成する「容器・包装3R推進協議会」を設置し、容器包装の発生抑制の第一歩として「脱レジ袋宣言」や「市内共通還元制度“エコクーぴょん”」など、レジ袋削減に取り組んできました。
     2017年6月には「2R推進実行委員会」へと名称を変更し、取り組みを継続しています。

    ※2R
    「発生抑制(リデュース)」および「再使用(リユース)」のこと。


  2. レジ袋有料化還元基金
     「2R推進実行委員会」では、各社の収益金を集約、スケールメリットを活かし、より効果の高い還元を行うことを目的として「レジ袋有料化還元基金」を設置しています。
     2010年度から還元策として、園庭の芝生化、緑のカーテン事業などを実施し、現在は給水機設置補助、動物園の動物のえさ代支援、公園花壇への協賛事業などを行っています。


  3. マイボトル・マイカップの利用促進
     マイボトルの利用を促進するため、仕事や休日にマイボトルの利用風景を紹介する動画をYouTube上で配信しているほか、SNS を利用したキャンペーンを実施し、市内に設置されているマイボトル対応の無料給水機や民間の給水スポットも紹介しています。


  4. 使い捨てプラスチックの削減
     使い捨てプラスチック削減に配慮した新しいライフスタイルへの転換のきっかけとなるよう、プラスチックごみ問題の現状を伝えるとともに、使い捨てプラスチックを使用しないライフスタイルの実践を「えらいぞ!ジブン!」プラスチックフリー応援プロモーションとして、呼びかけています。


  5. 食品ロスの削減
     “もったいない”食品ロスを削減するため、家庭での「食材の上手な使いきり」、「料理のおいしい食べきり」、「消費期限と賞味期限の正しい理解」などの周知活動やフードドライブを推進するとともに、飲食店等を対象とした「食べ残しゼロ協力店」登録制度などを推進しています。

リユース(再利用)の推進

  1. リユースカップ事業
     イベントなどで使い捨て容器の使用を抑制するため、「リユースカップ」などのリターナブル食器の貸し出しを無料で行っています。


  2. 粗大ごみの展示販売
     粗大ごみの中でもまだ使用できる家具類を回収し、展示販売を行うことにより、物を大切に長く使う意識の向上など、リユースの意識啓発を図っています。

プラスチック製品も資源回収

 現在は可燃ごみとしているプラスチック製品を、2024年4月から資源回収の対象とすることになりました。現在、弁当の空容器やトレーなどは資源ごみとして収集していますが、バケツや歯ブラシやハンガーなどのプラスチック製品は可燃ごみとして収集しています。

 2024年4月からはその区別をなくし、金属を含んだり発火の危険性のない物はプラスチック資源として収集することになるそうです。更なる資源循環が進むことに期待しています。

まとめ

 国連環境計画は報告書において、「管理が不適切なプラスチックごみの量が2040年に2.5倍に膨らみ環境中への流出も大幅に増える」と警鐘を鳴らしています。
 一方、報告書では、「プラスチックの使用自体を抑えリサイクルなどを進めるなど対策を強化すれば、海への流出を2040年に80%減らすなど汚染の低減が可能」とも指摘しています。

 「プラごみを捨てる人類に問題がある」などと責任を転嫁している状況ではなく、一刻も早く地球全体で取り組むべき問題だと思います。

 リデュース(元から量を減らす)、リユース(繰り返し使う)、リサイクル(分別し再利用する)」という3Rについて、最近では「リフューズ(手に入れない)」や「リペア(直して使う)」を加えて、4Rや5Rと言ったりもするようです。

 この取り組みは、持続可能な循環型社会をつくるうえで、大変重要な取り組みです。

 今までの大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会は、温室効果ガスを大量に排出し、地球温暖化をもたらしました。地球温暖化問題は、人類の将来へ最も影響がある問題のひとつだと思います。
 問題を解決するためには、循環型社会を目指す必要があると思っています。

 環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイさんが2005年に初来日した際、インタビューで「もったいない」という言葉に出会い、感銘を受けたそうです。

 マータイさんはこの美しい日本語を、環境を守る世界共通語「MOTTAINAI」として広めることを提唱しています。

 限りある資源を「もったいない」と感じることができれば、まだまだやれることが見つかるのではないでしょうか。

参考および出典



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