『蔵前』 ひとのつながりが息づく街

蔵前神社で涼を取る猫さん。撮影当日の気温は34℃。猫も暑いよね。
蔵前神社で涼を取る猫さん。撮影当日の気温は34℃。猫も暑いよね。

東京都台東区蔵前。
古くからの相撲ファン、もしくはボクシングやプロレスファンの皆さんには、蔵前国技館の名前が浮かぶかもしれません。現在の両国国技館の前に、大相撲の本場所が行われていた場所です。

蔵前は、昔からの問屋街でありながら、最近ではおしゃれなカフェやセレクトショップが並ぶ、最近注目のスポットでもあります。

和泉東京営業所は、昨年末にここ蔵前に移転しました。
今回は、検索ワード急上昇中の『蔵前』の今と昔をご紹介しましょう。

※画像はすべてクリックで拡大します。

蔵前という地名は、江戸時代に御米蔵(浅草御蔵)があったことに所以します。
御米蔵とは、江戸幕府が米を貯蔵するための倉庫であり、行政機関のことです。ただし、当時のお米は、武士ら幕府に勤める人々の給料でもあったわけですから、現代風に言えば、倉庫というよりも銀行と表現したほうが、イメージしやすいかもしれません。

浅草御蔵は、現在の隅田川に沿って南北約700m、約3万7千坪の敷地を持ち、隅田川に面した側に8つの船着き場を備えていました。
浅草御蔵は重要な行政機関ですから、その前には米問屋や札差(ふださし)が店を出し、自ずと街が栄えました。札差とは、江戸時代に幕府から旗本・御家人に支給される米の仲介を業とした業者であり、米の受け取り、運搬、売却の代行によって手数料を取り、また米を担保に金貸しを行っていた業者です。
浅草御蔵の前に栄えた街なので、蔵前という町名が付けられたわけです。

現在「蔵前橋通り」という道路があることから、東西に蔵前の街が広がっていたと勘違いする人がいらっしゃるようですが、実際は現在の国道6号線(江戸通り)が一番のメイン通りだったようです。

ちなみに当時、蔵前付近で隅田川にかかっていた橋は、大川橋(現在の吾妻橋)、両国橋のふたつだけ。蔵前地区の北側を走る春日通りがある厩橋が完成したのは、1874年(明治7年)のこと。蔵前地区の南側を走る蔵前橋が完成したのは、1924年(大正13年)ことです。

明治以降、浅草御蔵は政府御蔵と名前を変え、引き続き政府の管理下にありました。1881年(明治14年)には、現代における東京工業大学の元となった東京職工学校が、元浅草御蔵敷地内の南側(現在の浅草中学校付近)に設立されます。1897年(明治30年)には、浅草火力発電所が敷地内北側(現在の蔵前変電所付近)に建設されました。

ところが、大正12年に発生した関東大震災により、このあたりは倒壊、もしくは焼失します。東京職工学校、浅草火力発電所も例外ではありません。やがて、街は再建するも再び第二次世界大戦の東京大空襲で焼失します。

蔵前国技館が完成したのは、時代が進んだ1954年(昭和29年)のこと。
以降、力道山/木村政彦組vsシャープ兄弟のタッグマッチ(1954年/昭和29年)、昭和天皇の大相撲観戦(1955年/昭和30年)など、大相撲のみならず、プロレス、ボクシングなど、歴史に残る様々な名試合が蔵前国技館で開催されました。
余談ですが、力道山/木村政彦組vsシャープ兄弟のタッグマッチは、テレビ史に残るイベントとしても名を残しています。NHKと日本テレビが同時中継を行い、新橋駅西口広場の街頭テレビには、2万人の群衆が殺到したと語り継がれています。

1984年(昭和59年)、蔵前国技館は閉館し、両国国技館へその役割を引き継ぎました。
現在、浅草御蔵の跡地には、蔵前東京変電所、そして東京都下水道局の処理場となっています。

現代に話を戻しましょう。
元々、蔵前付近は駄菓子やおもちゃなどの問屋が並ぶ問屋街でした。ところがここ数年、おしゃれなカフェ、服飾系デザイナーの工房や、こだわりのセレクトショップなどが立ち並ぶようになりました。

Googleの検索キーワード「蔵前」を調べてみると、検索数は5年で倍増しています。
試しに、「蔵前」と検索してみてください。

「東京の隠れオシャレスポット」、「東京のブルックリン」、「昭和な雰囲気とモダンなデザインショップ」などなど...

ちょっと恥ずかしい、歯の浮くようなキャッチコピー(...)とともに、蔵前のオシャレスポットを紹介する記事がたくさんヒットします。

Google検索キーワード「蔵前」過去5年間の推移

「ここに店を構えてから20年位ですかね。昔は、夜は歩いている人もほとんどいなくて、女の子の独り歩きなんか、ちょっと物騒な感じすらあった街なんですが、ここ数年ですっかり様変わりしましたね」

こう語るのは、厩橋交差点にお店を構える『ハンバーグの店 ベア』の浦野店長です。

「ビジネスホテルも増えたし、おしゃれな店も増えましたよね。外国人の観光客も、多く見かけるようになりました。うちの店にも、よく来ますよ」

取材をしたのは、土曜日の午後3時前。
この時間でも、お客さんは途絶えることなくやってきます。以前よりも、お客さんは増えましたよ、と少し照れくさそうに話す浦野店長でした。

『ハンバーグの店 ベア』は、ハンバーグを中心に、フライやカレー、生姜焼きなども提供する洋食屋。しっかりと基本を押さえた味付けからは、優しさを感じます。素性の良い洋食屋さんですね。

取材当日は、和泉東京営業所フルメンバーで伺いましたが、中崎の頼んだ「とろろハンバーグ」が絶品でした。浦野店長いわく、「一番人気ではないが、リピーターを生む癖になる味」。

ぜひ、弊社にお越しの際には、お立ち寄りください。

蔵前に並ぶ問屋の中には、一般への小売を行っているところもあります。
和泉東京営業所のすぐ近くにある、『小森屋商店』も、そのひとつです。

「今年も創業103年になるんだよ。関東大震災と東京大空襲、二回も店は焼けたけど。戦後は、国から言われて、一度は錦糸町に移ったんだけど、結局蔵前に戻ってきたんだ」

長谷川社長は、伝票を片手に忙しそうにしながら、このように語ってくれました。
問屋業の注文をさばき、弊社中崎やら若林の「うまい棒をください...」というリクエストにも応えつつ、昔話を聞かせていただいた長谷川社長。
ちなみに、文字どおり山と積まれたおもちゃから、最近Amazonで話題になっている「焼肉パズル」を見つけた筆者は、即購入しました。これ、牛の人体模型図をパズルに見立て、パズルのピースで、カルビやらギアラやらの焼肉における部位名称を解説したもの。キモかわいい珍品として、人気なんだそうです。

えっ?、値段ですか。もちろん問屋価格です。うまい棒も、焼肉パズルも市価やAmazonよりもだいぶ安く購入できます。気になる方、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。

ところで...
何故いま、蔵前にいわゆる「オシャレ系」のショップが出店するんでしょうか。

「都内でも、比較的家賃が安い地区である」
確かにそうでしょう。
「東京スカイツリーを望むことができて、観光地としての価値が高まった」
これも理由のひとつではありますが...。

「お店同士でお客さんを紹介してくれるんですよ。例えば、うちなんかだと、すぐそばの美容室が、『あの店面白いですよ!』って紹介してくれて、よく来てくれるんです」

和泉東京営業所から直線距離で50mほどの場所にあり、今年2月に開店したばかりというセレクトショップ『WEEKENDER SHOP』の芹澤店長は、実に興味深い話を聞かせてくれました。

芹澤店長が示す棚の一角には、近隣ショップのショップカードが並んでいます。
他のお店に挨拶に行き、ショップカードを置いてもらえるかどうか、声をかけるんだそうです。いいよ、と言われれば、お互いにショップカードをお店に並べ、お客さんにも紹介します。

お店同士、横のつながり。
開業したばかりの『WEEKENDER SHOP』も、順調に客足を伸ばしていると言います。

「蔵前って、このあたりで働いていた職人さんが、自分のお店を出店するイメージだと思うんです。大きな資本の会社が狙うような、渋谷、新宿とは明らかに違います。
だからこそ、お店同士のつながりが息づいていますよね。

もともと、雑貨などを取り扱う仕事をしていて、2012年に起業しました。
お店を出すのであれば、ましてや東京にお店を出すのであれば、下町に出店したい、って希望は持っていました。ホントの東京を感じるのであれば、やはり下町なのかな、とも思いますしね」

国産からインポートものまで取り扱う、こだわりのセレクトショップを開いた芹澤店長は、少し照れくさそうに、お話を聞かせてくれました。

芹澤店長おすすめの洗剤は、さっそく中崎と若林が購入していました。
原油タンカーなどが事故により、油を海へ流出させてしまった際に用いられる油処理剤から生まれた洗剤は、抜群の汚れ落ちを発揮するそうです。
他にもステンレス製のお弁当箱で名を馳せる工房アイザワの製品など、さすがと思えるこだわりの製品が並んでいます。

和泉東京事務所から、大江戸線蔵前駅に向かう途中にある、『WEEKENDER SHOP』。
ちょっとイイものに出会い人には、実に興味深いお店です。ぜひ立ち寄ってください。

蔵前という街は、昔も今も人が集まる街です。
そして、歴史のある街でありながら、その姿は時代に合わせて変化し続けてきた街でもあります。

江戸時代は、金融の中心。
明治~大正期は、行政と文化の地であり、戦後昭和は格闘技エンターテイメントの聖地とも呼ぶべき地となりました。
そして、問屋街とこだわりの人々が集う街となった現在。

蔵前という街は、昔ながらの問屋も、今をときめくカフェもセレクトショップも、両方おもしろいです。
なかなかないですよ、こんな街。

今と昔、歴史のつながりが街の趣きに深みを添え、そして昔からの人々と、いまこれから蔵前を盛り上げようと集まってきた人とがつながることで、街を一層おもしろくしています。

皆さまもぜひ蔵前にお越しください。
でも、その時は、和泉東京営業所にも立ち寄ってくださいね!

フォトギャラリー

参考リンク

Wikipedia
蔵前
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%94%B5%E5%89%8D

札差
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AD%E5%B7%AE

江戸實測図(1817年伊能忠敬により作成された地図)
http://kochizu.gsi.go.jp/items/172

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