【勉さんのちょっといい話】トヨタ生産方式の肝は人材育成にあり!

それはある会社の、女子トイレにおける出来事だったそうです。

水を流さない...
汚物が残ったまま放置されることが続きました。

張り紙をしても効果なし。 
会社のトイレですから、社員の誰かが犯人であることは間違いがありません。

「もう! 誰なのよ!!」 
思わず口にしたところ、隣にいた後輩がつぶやいたです。

「自動なのに、なぜ流れないんでしょうねぇ」 

考えてみれば、事が発生し始めたのは、トイレが手かざしセンサー式の水洗スイッチに切り替えられてからでした。確かに、センサースイッチは洋服等に反応し、勝手に水が流れることがあります。しかし、それは言わば誤作動の結果であり、自動水洗ではありません。

犯人は、その後輩女子社員を含めた、トイレを自動水洗だと思い込んでいた数名だったというわけです。

今回は、トヨタ生産方式のふたつの柱である「自働化」と、トヨタ生産方式を実践する上で欠かせない「人材育成の大切さ」について、考えてみましょうか。

トヨタ生産方式は、「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」のふたつを柱とします。 
「自働化」は、「自動ドア」などで使われる「動く(うごく)」ではなく、にんべんの「働く(はたらく)」を用います。

なぜ、「自動化」ではなく「自働化」なのか。 
生産工程を、ただ自動機械化するのではなく、人の知恵を加え改善する。これが「自働化」です。 
「自働化」の発祥として語られる、自動織機の例では、豊田佐吉氏が、自動織機が糸切れなどの異常を起こした際に、自動停止する仕組みを組み込んだエピソードがあります。

ただし、自動機械に、「自働化」の知恵を組み込んだだけでは、真の「自働化」は完成しません。
トヨタWebサイトにある、「自働化」に関する説明を抜粋しましょう。

「『自働』とは、機械に善し悪しを判断させる装置をビルトインした機械であり、『自動』は動くだけのものです。機械を管理・監督する作業者の動きを『単なる動き』ではなく、ニンベンの付いた『働き』にすることが『自働化』を意味します」

「作業者の動きを『単なる動き』ではなく、ニンベンの付いた『働き』にする」ためには、何が必要なのか。
そう、人材育成が「自動化」の鍵であり、トヨタ生産方式の肝なのです。

私も、数々のトヨタ生産方式導入のお手伝いをしてきました。しかしながら、すべてのプロジェクトが順調であったわけではありません。
恥を忍んで、ふたつの例をご紹介しましょう。

ひとつ目の例です。
トヨタ生産方式の導入を検討している、ある企業。
私はヒアリングを行い、現場を確認し、私なりに成功の手応えを感じて、経営陣にトヨタ生産方式の成功イメージをプレゼンしました。
プレゼンは成功しましたが、後から考えると、成功しすぎでした。
経営陣の皆さまには、トヨタ生産方式の効果ばかりが刷り込まれ、トヨタ生産方式の狙いや、実現するまでの工程の大事さ、何よりも人材育成の大切さに対する理解が足りていませんでした。

いざコンサルティングに取り組み始めてから、
「トヨタ生産方式を導入すれば、すぐに生産性が向上し、すぐに利益に直結する」
と勘違いした経営陣に、あらためて人材教育の大切さを理解していただくのは、大変な苦労を伴いました。

ふたつ目の例、これは私がトヨタ在籍時に経験したことです。
その企業には、約1年間のコンサルティング・プロジェクト遂行中、エキスパート7~9名が張り付いて、トヨタ生産方式導入をサポートしました。
生産性は格段の進化を遂げ、品質も向上、プロジェクトは大成功かと思われました。
しかし、プロジェクトが終了し1年も経つと、すべてはトヨタ生産方式導入までの状態に戻ってしまったそうです。

「動く」ではなく、「働く」ことの本当の意味であり価値を、肝心の作業者、社員たちに対し、教育しきれなかったことが、原因であったと私は考えています。

カイゼンへの取り組みは、全員が参加すること、特に現場に携わる作業員の皆さまへの教育が伴って、初めて真の実現を果たすものです。
利益を生むのは、現場ですからね。
カンバン方式や、機械の自動化といったトヨタ生産方式の仕組みの部分も、もちろんカイゼンに効く大切な要素ではありますが、本当に大切なのは教育であり、人材育成の部分なのです。

冒頭の女子社員たちも、本当の自動水洗を理解(教育)していれば、自分の汚物を他人の目に晒すような恥をかかずに済んだんでしょうけどね。

トヨタ生産方式は、確かに時間がかかります。
でも、人材育成のために、とてもいい手法です!

出典:
トヨタWebサイト/自働化について
http://www.toyota.co.jp/jpn/company/vision/production_system/jidoka.html


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